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人事と組織の経済学_第2章適任者の採用まとめ

「人事と組織の経済学」の第2章は、「適任者の採用」といったテーマで、企業がどのように従業員を採用するのか、そして入社した後、どのような種類のキャリアを歩ませるのかを考察しています。

人事と組織の経済学・実践編

人事と組織の経済学・実践編

 

 企業にとって魅力的な人材に入社してもらうには、いくつか方法がありますが、一番わかりやすいやり方としては高い給与や条件を提示することがあげられます。確かに高い給与を提示することで、優秀な人材が応募をしてくる可能性が上がります。しかし、給料が高いために同時にスキルの低い人材も呼び寄せてしまうことになります。採用時には、応募者と企業側には情報の非対称性が存在するために、いわゆる逆選択という問題が生じ、企業は質の悪い人材ばかりが集まるというリスクを負うことになります。

なお、逆選択は英語では「Adverse Selection」となっており、本来的な意味では「逆選択」という日本語よりも「逆選抜」の方がしっくりくるかと思います。

望ましくない応募者を除くための一番わかりやすい方法が、候補者の経験(仕事や昇進歴)や学歴(例えば卒業した大学や大学での専攻、MBA等)の要件を設けることです。このことは、応募者から見れば「シグナリング」を発することで、自分が優秀であることを企業に示すことと言えます。他方、企業から見て事前に応募者の質がわからない場合は、経験や学歴等を利用し、「スクリーニング」をすることで、優秀な人材を見極めるという行動をとることになります。

本書の例では、「求職者に自己選択をさせる」といったものが秀逸でした。生産性がそれなりに高いDと生産性がとても高いEがいたとします。企業はどちらも生産性がそれなりには高いので簡単に見分けることはできません。このような、場合試用期間を設けて、最初の期間は給料は低いものの、後半の期間は昇進をすれば給料が高くなるとします。ポイントは、最初の期間は他の仕事をする場合よりも給料は低いということです。昇進する自信があるEは、最初の期間の給料が低くても、後半の使用期間で昇進をすれば高い給与を得られるので、自ら当該ポジションに応募をしようとします。しかしながら、生産性がそこそこのDは、昇進できない可能性があり、給与が最初の期間も後半の期間も低いままの可能性があります。この場合は、それなりに生産性が高いDは、他の仕事を選んだ方が給料面では合理性がある可能性があります。その結果、求職者による自己選抜が行われ、生産性の高さに自信のあるEのみが応募する可能性が高くなります。

このように、シグナリングやスクリーニングはエッセンスはわかりやすいですが、実際の運用となると綿密な設計が情報の非対称性の解決に本質的に役立つものとなります。

本章の説明は基本的には「昇進か、退職か(up –or -out)」をベースに議論が進んでいるため、年功序列的な先入観があるとやや理解が難しいかもしれません。年功序列的な雇用形態も企業が生産性を上げるための相応の合理性がもちろんあります。しかしながら年功序列の賃金体系はある意味応用的なインセンティブ設計がなされているという点で、まずは「昇進か、退職か(up –or -out)」といった典型的な情報の非対称性の問題を扱うことで、採用に関する合理性を学ぶのが良いかと考えます。