未来の金融をデザインする

主に経済や金融に関する記事や開催した読書会や勉強会の報告を書いております。

人事と組織の経済学_導入

2018年2月18日から人事と組織の経済学の輪読を開始します。

人事と組織の経済学・実践編

人事と組織の経済学・実践編

 

FEDではこれまで組織の経済学*1及び法と経済学*2の輪読を行ってきました。今回の人事と組織の経済学は、この流れを引き継ぐ勉強会となっております。実際に人事と組織の経済学の内容は、モデルの構築方法やインセンティブや制度の設計方法において、組織の経済学や法の経済学で学んできた内容と重なる部分も多々あります。

以下では、人事と組織の経済学(以下、「本書」)の概要について記載します。本書は、人事経済学の第一人者で日本の終身雇用の論文でも有名な*3エドワード・P・ラジアーがマイケル・ギブスと共著で書かれたもので、スタンフォード大学シカゴ大学のビジネス・スクールの「経営者のための人事経済学」の授業においても使われている教科書です。そのため、アカデミックな知見を用いながらも、実際のビジネスを見据えられているため、事例が豊富で読みやすい内容となっています。

訳者の前書きでもかかれているように、自動車が順調に走っている時に、運転者はアクセルとブレーキの踏み方、ハンドルの回し方さえを知っていれば、エンジンの仕組み等がわからなくても、自動車を走らせることができます。一方で、自動車が故障すると、エンジンのような仕組みがわからないと途端に自動車を動かせなくなり、修理をするには、プロの技術者やエンジニアによる助けが必要になってきます。

このような状況は人事制度に当てはまります。企業や経済が順調に成長している時には、これまで通りと同じように人事の運用、例えば個々の制度や慣行、給与体系、人事評価等を続け、これらが企業のパフォーマンスにどのような影響を与えているのかを知らなくても大きな問題にはなりません。他方で環境が抜本的に変わり、企業のあり方や戦略を変えなければならない際には、人事制度や雇用制度の仕組みをきちんと理解していないと対応することはできません。日本の企業は未だに多くの企業が暗黙のうちに終身雇用、年功序列、新卒一括採用といった雇用体系を採用しています。これらの雇用体系は戦後の高度経済成長期と日本の人口動態を前提とした制度でしたが、前提が変わっている現在においては、小手先の変更ではなく、抜本的な手当が求められるようになります。

「未来の金融をデザインする」をミッションとするFEDが今回人事と組織の経済学を輪読の課題本とした理由の一つは、このような組織の抜本的な手当てを行うに当たって、金融も大きな役割を果たすと考えているからです。その理由はコーポレートガバナンスに見られるように、組織の統治においては、金融のあり方もまた組織に多大なる影響を与えるためです。

ではどのように今後の日本の人事を再構築すれば良いのか。本書では、経済学の知見を用いて、採用基準の設定、組織と職務の設計、報酬、福利厚生、雇用関係等についての仕組みのあり方について解説されています。終身雇用、年功序列といった雇用制度が機能しなくなった状況において、どのような人事制度を設計すれば企業のパフォーマンスを上げることができるのかについて本書は大きな示唆を与えてくれます。

*1:

組織の経済学

組織の経済学

 

*2:

法と経済学

法と経済学

 

*3:Edward P. Lazear(1981),” Agency, Earnings Profiles, Productivity, and Hours Restrictions”, American Economic Review , Vol. 71, No. 4 (Sep., 1981), pp. 606-620