「創造性の宿し方_開催報告_3月24日(日)曳舟図書館
3月24日(日)に墨田区の曳舟図書館にて、法政大学専任講師の永山晋先生が「創造性の宿し方」というテーマでご講演を行い、FEDとしても一部協力させていただきました。https://www.facebook.com/events/1690593100984605/
永山先生は、ハーバードビジネスレビュー2017年7月号で「日本企業の生産性は本当に低いのか」と言ったテーマで寄稿されていたり、入山先生が同HBRで連載されている「世界標準の経営理論」において、主にネットワーク理論等でも執筆にご協力されています。
ダイヤモンドハーバードビジネスレビュー 2017年 07 月号 [雑誌] (生産性 競争力の唯一の源泉)
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2017/06/09
- メディア: 雑誌
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当日は「創造性の宿し方」というテーマで、研究者がどのような知識を得て、そして研究を進められているのかをお話しいただきました。
そもそも創造性とは何でしょうか。そして、なぜ創造性は必要なのでしょうか。ざっくり言うと、創造性とは新規性と有用性を兼ね備えたものです。そして多くの場合、この二つはトレードオフの関係にあるので、同時に満たすことは稀となることから、創造性を有する人やアイデアは希少となります。
そしてイノベーションには創造性が必要ですが、この創造性はどうすれば得られるのか。当日はこのことについて、研究者がどのような研究をし、そしてこれら研究が我々の生活へどのうにして応用出来るのかのヒントについて永山先生にはお話しをしていただきました。
イノベーションは、シュンペーターの時代から新結合、すなわち既存の知を掛け合わせたところから産まれると言われています。ではどう言った知もしくはアイデアを掛け合わせれば、より創造性が高いアイデアが生まれ、イノベーションにつながるのでしょうか。当日は以下の3本の論文をご紹介していただきました。
- Serendipity and strategy in rapid innovation
- Fashion with a Foreign Flair: Professional Experiences Abroad Facilitate the Creative Innovations of Organizations
- THE DOUBLE-EDGED SWORD OF RECOMBINATION IN BREAKTHROUGH INNOVATION
上記の中でも、①Serendipity and strategy in rapid innovation(以下、「本論文」)が特に興味深かったので、以下ではそのエッセンスをご紹介させていただきます。
本論文は、いわゆるセレンディピティ(偶有性)はどのようにして生まれるのかということを科学的な視点で分析しているものです。本論文では、アルファベット、料理、そして テクノロジーを例にとって、時間の経過や選択肢が増えることで、それぞれの構成要素の有効性がどのように変化しているかを定量的に分析しています。
以下では、料理についての例を記載いたします。複数の素材を使って料理を作るとき、どの素材が有効かということを考えてみます。例えば、使える食材が少ない時は卵、小麦、バター、玉ねぎ等が使い勝手が良いです。
他方、使える食材が少ない時は、唐辛子等は使い道が限定的なので、扱いづらいです。本論文によれば、使える食材が少ない時には唐辛子よりもココアの方が使い勝手が良いのですが、使える食材が増えていけば行くほど、ココアの有効性は減っていく一方、唐辛子は有効性が増していきます。すなわち、使える材料の量に応じて、素材の有効性が変わって行くとのことです。そして、このことがセレンディピティの理由の一つと考えられます。つまり、最初は役に立たないと思ったものが、状況が変わると有効になって行くということです。
本論文では、現在有効な要素だけを集める短期的な方法、短期的にはあまり使えないが長期的に有効になるものを踏まえて要素を集める長期的な方法、そして適当に要素を集める方法の3つを比較しています。結果は、最初は短期的な方法の方が効果は高いものの、長期的には長期的な将来を踏まえた方法の方がパフォーマンスは上がることが示されています。また、複雑な状況になればなるほど、長期的な視座が重要になるということも、アルファベット、料理、そしてテクノロジーを比較することで指摘しています。なお、適当に集めるのがダントツに非効率でした。
料理の例では、必要な食材が分かっており、どういった料理を作るのかが分かっているので、料理のレパートリーを増やすために唐辛子を使えるようにするほうが長期的な料理の腕前はあがることがわかりますが、実生活や事業においては何が重要になるかは簡単には見極めることはできません。
では、実生活や事業において重要になるのは何なのか。それは人生や事業におけるミッションやビジョンとなります。ミッションやビジョンを持って物事に取り組むことにより、短期的には無駄に見えても、長期的には役立つと言った取り組みが増えることになります。スティーブ・ジョブズはこのことを「connecting dots」と表現しました。
また日本人初のプロゲーマーであり、ゲームに関するギネス記録を複数持っている梅原大吾さんは、過去にインタビューで、次のようなことを言っていました。
「みんなが即座に役立つ情報中心地に滞在しているあいだ、僕は僻地で“ガラクタ集め”をしているんです(笑)。中心地は情報が溢れているので、たとえ1年遠回りしたとしても、中心地に行けば一瞬で情報を吸収できますから、焦ることはない。自分しか知らないガラクタを集めておけば、そのガラクタが1年後に差になる、というワケです。」
本論文でも、レゴのパーツをどのようにして集めるのかといった例が出てきており、すぐに役立ちパーツばかり集めるケースと、すぐには役立たないけど長期的に役立つ集めるケースを比較して、長い目で見ると後者の方が良いものができることが示されています。
このようにイノベーティブなアイデアやセレンディピティはまさに長期的な視点があればある程、生まれやすくなることが学術的に指摘されています。
FEDは前身となるマンキュー経済学勉強会を初回は6人(2回目は3人)で2009年11月から開始し、丸3年かけて全36章を全て読み終えました。この3年間で、多くの人達と出会い、そして、多くの方からご協力を得たことで、今のFEDがあります。その背後には、「未来の金融をデザインする」というミッションをもとに活動をしてきたことがあげられます。途中試行錯誤をすることもありましたが、おかげさまでなんとかここまでFEDを続けることができています。
FEDを続ければ続けるほどわかってきたのが、過去に読んだ本や取り上げた課題図書が後から役に立ってくるということです。実際に、今回の永山先生のご講演の関係では、過去に読書会で取り上げた以下の本が役に立ちました。
世界の経営学者はいま何を考えているのか――知られざるビジネスの知のフロンティア
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アイデア・メーカー: 今までにない発想を生み出しビジネスモデルを設計する教科書&問題集
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関連で、「マーケット進化論」の読書会をした際にもセレンディピティについて同様のことを書いていました。
また、今回の永山先生のご講演では、「ネット上に溢れている情報でも適切にアクセするのは難しい」とも感じました。冒頭でも書いたように永山先生は「研究者がどのようにして知識を得ているのか」といったことと関連し、創造性に関する学術的な研究を複数ご紹介してくださいました。これらは、全てインターネット上にて無料で入手することができます。一方で、素人がこれらの情報にアクセスしようとしてもそもそもどうやって検索ワードをかければ良いのか、またアクセスできたとしても、その論文が良い内容なのかそれともイマイチなのかを判別するのは非常に困難です。
FEDでは、学術と実務の架け橋をするような勉強会・読書会の開催を意識していますが、まさに今回のような会の開催をサポートすることでを通じて、普段はなかなかアクセスできない学術的な知見を日々の生活や実務にも役立たせるようなお手伝いが出来ればと考えております。
最後になりましたが、お忙しい中、ご講演を引き受けてくださった永山先生、場所を提供してくださった曳舟図書館の皆様、ハーバードビジネスレビュー読書会の開催者である原さん、そして当日お越しくださった皆様にこの場を借りて感謝も仕上げます。
今回は創造性をテーマにしたセミナーとなりましたが、今後FEDでは、似たような文脈で以下の2冊の本を取り上げてそれぞれ読書会を開催する予定です。ご興味があれば、こちらにもご参加いただけますと幸いです。
情報経済の鉄則 ネットワーク型経済を生き抜くための戦略ガイド (日経BPクラシックス)
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プラットフォームの経済学 機械は人と企業の未来をどう変える?
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前者は経済学者としてのみならず、グーグルのチーフエコノミストとしても有名なハル・ヴァリアンが著者の一人となっている情報の経済学についての古典です。後者は、「機械との競争」や「セカンドマシンエイジ」の著者らが書いた機械とプラットフォームに関する本です。
いずれの内容もネットサーフィンをしているだけでは到底たどり着けない知の宝庫となっています。今すぐに役立たなくても、向こう5年、10年後には重要になってくるような議論を当日できるように事務局としても尽力します。奮ってのご参加をお待ちしております。