未来の金融をデザインする

主に経済や金融に関する記事や開催した読書会や勉強会の報告を書いております。

「Fintech革命」読書会_開催報告_2016年1月31日(日)

2016年2回目のFEDの勉強会では、日経BP社から出版された「Fintech革命」というムック本を題材に、Fintechについて幅広く学びました。

FinTech革命(日経BPムック)

FinTech革命(日経BPムック)

今回は参加者が多いことが見込まれていたことと、Fintechを深掘りするよりもFintechをいかに幅広い視点から捉えることを重視したため、FEDでは初のワールドカフェ形式※でディスカッションを行いました。
※ワールドカフェとは

議題は「Fintechは今後我々の生活や働き方をどのように変えていくのだろうか?」で、1チーム4名〜5名程で、メンバーを替えながら合計3回ディスカッションを行いました。ディスカッションでは以下のような意見が出ました。

  • Fintechを二つにわけて考える必要があるのではないか。すなわち、既存の金融の合理化と、国家に変わる新しい信用保証の金融。日本の金融機関で見えているのは合理化のための金融。金融庁はFintechの動きに対して、どういう風に考えているのか。ビットコインは国家のあり方、社会のあり方、我々の行き方にも影響を与えてくるのではないか。
  • Fintechには経済的なメリットではない価値もあるのではないか。Fintechによる使い勝手、共感、それ自体が面白い。また、情報の非対称性がデジタル化によって解消が進んだとしても、アナログな部分も残る。むしろ、アナログの方がいいのではないという考えもある。
  • 銀行から得ているサービスは決済、融資、預金の3つ。伝統的な銀行業務のうち、融資と決済は新しいテクノロジーによって、取って代わられる可能性が高い。他方、預金は銀行サービスに残るのではないか。自分たちで銀行はどうビジネスチャンスにかえていくのか。
  • Fintechは貧困層へのインパクトが大きい。例えば送金をしやすくなるや融資をしやすくなる等。また、身近な例では勉強会のお金のとりっぱぐれがなくなるといったこともあげられる。また、Fintechのおかげで小額の仕事がやりやすくなる。人工知能に関して、人工知能同士の優劣も出てくるのはないか。Fintechが普及するにあたり、アメリカと日本では法律に大きな違いがある。アメリカでは訴えられてから考えるので、動きが早い。日本の法制度の整備もFintechの面から重要ではないか。
  • 金融のリスク(例えばバブル等)の捉え方にはFed viewとBIS viewの二つが存在する。前者は問題が起きてから事後的に対応するもの、後者は問題が起きないように事前に対応するもの。
  • Fintechが普及していくと、銀行のローン、証券会社債権引受業務、ボローカレッジ等さや抜きビジネスの利ざやが減っていく可能性が高い。Amazonの取引履歴での融資では、これまで定量的にしか考えられなかったことも、定性的に見られるようになってくるのではないか。

ワールドカフェ形式で今回は行ったこともあり、多様な範囲に議論が及び参加者の方々にとって何かしらの学びや気付きがございましたら、幸いです。さて、今回はFintechを幅広い視点から考えていきましたが、今後は「ビットコインブロックチェーン」「人工知能とトレーディング業務」「Amazon等のIT系小売業者によるトランザクション貸出」「新たな決済業務」等、論点を絞って、一つ一つの議論を深掘りしていきたいと考えております。

取り急ぎ、3月以降で外部から講師をお招きし、ブロックチェーンについてお話を伺う予定です。ご興味がございましたら、こちらもご参加いただければと思います。
引き続きどうぞ宜しくお願い致します!

第1回法と経済学勉強会_開催報告_2016年1月24日

2016年最初ののFEDの活動は「第1回法と経済学勉強会」となりました!おかげさまで30名以上の方にご参加いただき、おおいに盛り上がりました。

法と経済学

法と経済学

「法と経済学」の原著のタイトルが「Foundations of Economics Analysis of Law」となっているように、本書は、法を経済学的に分析・理解する本となっております。
去年輪読した「組織の経済学」は、組織の仕組みや慣習、制度等を経済学の観点から分析した本でした。「組織の経済学」の続編として、「法と経済学勉強会」では、「法と経済学」を課題図書として、法を経済学の視点から読み解いていきます。
組織の経済学

組織の経済学

第1回では、主に所有権について扱いました。経済学的に考えると所有権があることによって、人は労働のインセンティブをもったり、所有する物を保存したり改良するインセンティブをもったり、また紛争を避けることが出来たりします。
加えて厚生経済学の観点を入れることで、個々人に取っての最適だけでなく社会全体でどうすれば最適になるかを考えることが出来るようになります。例えば共有地の悲劇は、所有権がないことにより、個々人が節度なく消費することで起きたりしますが、所有権を与えることで避けることも出来ます。
グループでのディスカッションでは、法律の適用は前例主義か経済合理性で判断すべきなのか、Fintechが法と経済学にあたる影響はどういったものがあるのか、そしてIoTといったもののインターネットが発達すると所有権がより明示的になるのではないか等、最近のトピックも踏まえ幅広に議論することが出来ました。
今後読み進めるにあたっては厚生経済学の考え方や記述的分析、規範的分析の話は理解しておいた方が、読みやすくなると思いますので、26章と28章(両方合わせても30ページ程)を先に読むことをお勧めします。

明けましておめでとうございます。本年もどうぞ宜しくお願い致します。

ご報告が遅れましたが、先月12月5日に第8回組織の経済学勉強会を開催しました。おかげさまで1年かけて組織の経済学を輪読し終えることが出来ました。

組織の経済学

組織の経済学

最終回では、第16章企業の境界と構造と第17章経営・経済システムの進化を扱いました。今回の勉強会では、企業の構造として、事業部制組織の仕組みや垂直統合の長所について学びました。また、事業部制組織の関連で、職能別組織やマトリックス型の組織、人事部長とCHRO(Chief Human Resource Officer)の違い、内製化かアウトソースか、についての議論も盛り上がりました。

1年を通して組織の経済学を学んでこれまで以上に経済学の懐の深さを実感した次第です。組織という切り口ですが、労働市場や金融市場の在り方についての章もありましたし、インセンティブや契約論の仕組みについても多数の言及がありました。

本教科書は今から25年前の1990年前後に書かれていたこともあり、日本的経営が長期的な視野を持っている一方、アメリカ型の経営は短期的だという記載があったのも印象的でした。今から振り返って見ると、日本ではその後のバブル崩壊を経て失われた20年間に突入する一方で、アメリカは2000年のドットコムバブルや2008年のリーマンショックを経つつも、少なくともテクノロジーの分野では世界最先端を走っています。その強さは組織にあるのか、労働市場にあるのか、はたまた金融市場にあるのか。恐らく全て影響しているかと思いますが、組織の経済学を学ぶ中で、複雑に絡まったブラックボックスの糸をほどいていく手がかりを得た気がします。

2016年はシャベルの「法と経済学」を1年ぐらいかけて読む予定です。FEDは精読を重視しています。時間はかかりますが、分厚い本をしっかりと読み終えた後にはきっとこれまでとは違ったものの見方が身に付いていると思います。FEDでは過去6年間でマンキュー経済学、Principles of Corporate Finance、Valuation、そして組織の経済学を輪読を通じて読み終えてきたからこそ確信しています。

変化や流行り廃りが早く、情報が溢れかえっている世の中だからこそ、たまには立ち止まって、理論と向き合い、著者とゆっくりと対話しながら、そして勉強会参加者と議論しながら自分でしっかりとものを考えることが大切になってくると思います。2016年も皆様とご一緒できるのを楽しみにしております。

12月12日(土)に「帳簿の世界史」読書会を開催いたしました。

12月12日(土)に「帳簿の世界史」読書会を開催いたしました。

帳簿の世界史

帳簿の世界史

『帳簿』にまつわる記録を、主にヨーロッパ、アメリカを中心とした歴史と共に紐解いて行く本著。複式簿記や会計士、監査法人などがどういった経緯で生まれたのか、といった本の内容を挙げつつ、貨幣とは、信用創造の本質とは何かといった本から派生した内容についてディスカッションが繰り広げられました。
中でも、やはり「帳簿をつける」ということは自己の取引を自分自身で記録することであり、その過程においては神を始めとする宗教観や文化、道徳、政府の存在、コミュニティの存在が関係してくるといった内容で非常に盛り上がりました。
ご参加いただいた皆様と、本の内容によらず様々な引用を交えた議論が展開でき、大変有意義な時間となりました。
ご参加いただきました皆様、ありがとうございました!


【開催報告:11月15日「まるわかりインダストリー4.0」読書会】

11月15日(日)午前に、「まるわかりインダストリー4.0」読書会を開催いたしました。

そもそも「インダストリー4.0」とは何なのか、何故今この話題が盛り上がっているのかと、本業に寄らず多くの業界の方がこのホットトピックについて学びたいとご参加いただきました。
冒頭では、FED事務局からマクロ的視点からその背景について発表があり、その後実務で「インダストリー4.0」に携わっていらっしゃる方に発表をいただきました。中でも日本では今どういった動きがされているのかに関心が高く、参加者からも質問が飛び交っていました。
後半は、「インダストリー4.0で我々の仕事や生活はどのようになるのか」についてグループでディスカッションを行いました。直接的に仕事や生活が大きく変わるという想像がつかない、というのが大半の方のご意見のようでしたが、今回トピックスの理解を深めることで、今後の変化をより深く見極めて行きたいと皆様感じられたようです。
ご参加いただきました皆様、誠にありがとうございました!

【開催報告:2015年10月31日第7回組織の経済学勉強会】

10月31日に第7回組織の経済学勉強会を開催しました。今回扱ったのは、「第?部資金調達:投資、資本構成、コーポレート・コントロール」で、具体的には「第14章投資とファイナンスの古典的理論」と「第15章金融構造、所有、コーポレートコントロール」となります。

組織の経済学

組織の経済学

組織の経済学と言うテーマにも関わらず、金融を扱うということは不思議に思うかもしれませんが、組織が資金調達するにあたり、資本構成が組織にどういった影響を与えるのかという点を考えれば、組織と金融は切っても切れない関係というのがわかるかと思います(簡単に言うと、金主によって組織の在り方は変わるよね、ということですね。)。

さて、第14章は古典的なファイナンス理論について書かれています。14章では、モディリアーニ=ミラーの定理、通称MM定理が成り立つ世界を中心に学びました。MM定理が成立する世界では、資本構成は企業価値に影響を与えなくなります。このような状況で重要なのは、資金の調達方法ではなく、投資対象のプロジェクトそのものになります。この章ではMM定理の前提となるポートフォリオ分離定理やフィッシャーの分離定理、NPV、そして情報が株価にどういった影響を与えるかについての効率的市場仮説について学びました。

第15章では、14章で学んだMM定理が成立しないというより現実に近い状況を想定したファイナンスモデルを学びました。具体的には、株主と経営者や株主と債権者の間で情報の非対称性が存在する世界では、MM定理が成立せず、資本構造は企業価値に影響を与えることとなります。多くの場合、経営者は投資家よりも企業に関する情報を持っています。そのため、投資家は経営者の資本調達や配当政策といった意思決定を持って、どういったシグリナングを発しているのかを考えることになります。他方、経営者の立場からは、よりよい資金調達を行うため、資本構成というメッセージを発することで、投資家に投資をしてもらおうとするインセンティブが出て来ます。

現在、日本でもスチュワードシップコードやコーポレートガバナンスコードといったように、株主の役割が一層見直されるようになりました。今回我々が学んだテーマは現在の日本でもまさに議論されているイシューで、実務の話も踏まえて議論が多いに盛り上がりました。

参加者からは「本書は20年以上前に書かれており、当時では日本の企業が米国と違って短期的ではなく、長期的視点(日本的経営、メインバンク等)を持っていると書かれているのが興味深かった。」「米国では1960年代からのコングロマリットを経て、1980年代に集中と選択を通じたM&Aが多く行われ、その直後に書かれた本だったので、コングロマリットディスカウントの記述が目立ったように感じた。」等といった意見もございました。
次回はついに組織の経済学勉強会も最終回となります。最終回では勉強会後に懇親会も開催する予定です。奮ってのご参加をお持ちしております!

コーポレートベンチャーキャピタルから考える金融その2-事業会社が保有するベンチャーキャピタルからの投資と事業会社本体からの投資-

SNSやネットのよいところの一つは、自分の考えや仮説についてネットにぶつけてみた時に、思わぬ反応があり、仮に自分の仮説が間違っていようが正しかったであろうとも、さらに自身の仮説を深化させることが出来ることだと思います。

CVCは企業が組成するベンチャーキャピタル
先日コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)について書きました。そして、ベンチャー企業への投資業を行っていた同僚に書いた内容について、「どう?」って聞いたところ、「実務でいうところのCVCってちょっとニュアンスが違うかな」との返答。同僚曰く、「CVCは企業が組成するファンドのイメージ。コーポレート『ベンチャーキャピタル』なんだから。他方、FacebookがWhats appを買収するのって、ベンチャー投資っていうか、ストラテッジクインベストメント(戦略的投資)でしょ。」とのこと。

なるほどです。他方、私はCVCを「企業がベンチャー企業に投資をする活動」として定義しておりました。しかし、ベンチャー投資の実務に携わっていた立場からすると、CVCとは例えば以下のようなベンチャーキャピタルをイメージするようです。

  • リクルートインキュベーションパートナーズ(20億円)
  • GREE Ventures(20億円)
  • Klab Ventures(30億円規模)
  • アイ・マーキュリーキャピタル(mixi)(50億円規模)
  • KDDI Open Innovation Fund (50億円規模)
  • ドコモ・イノベーションファンド(100億円規模)
  • YJキャピタル(10億円)
  • フジ・スタートアップ・ベンチャーズ(15億円規模)

上記は加え、例えば、海外の企業でもGoogleGoogle Venturesという子会社を抱えています。こちらのブログによれば、Google Venturesの特徴は以下の通りです。

  • 2009年にGoogleの経営企画部門から独立したCVC。
  • 設立から4年で、現在では$1.2billion(1200億円)を運用し、225社の投資先を抱えている。
  • 投資セクターは、コンシューマーインターネット、ソフトウェア、ハードウェア、クリーンテック、バイオ、ヘルスケア等。投資ラウンドはシードからレイトまで全てのステージが対象。
  • パートナーおよび従業員60名のほとんどがGoogle出身。一方で、投資の意思決定はGoogle本体から独立しており、ファンドのリターンもGoogle Venturesの従業員にシェアされる仕組み。」

Googleは元々本体でベンチャー投資を行っていましたが、その部門が独立したというのがGoogle Venturesです。上記の日系のCVCも基本的には親会社からの出向でほとんどの人が構成されていると予想されています。

このように、実務でCVCという時は、いわゆる「ベンチャーキャピタルファンド」をイメージするとのことです。以下ではこのような事業会社がもつベンチャーキャピタルを「CVC」とします。ただの"CVC"は前回と同様「事業会社がベンチャー企業に出資・投資すること」とします。

「CVC」はベンチャーキャピタルファンドのことですが、事業会社本体でベンチャー企業へ投資を行っていることももちろんあり、広義ではこれもやはりCVCとなります。サイバーエージェントは、本体でもベンチャー投資をしていますし、サイバーエージェントベンチャーズという子会社の「CVC」も持っています。概念として、前者はCVCではなく、後者の「CVC」のみをCVCとするのはそれはそれで違和感はあります。

企業がベンチャーキャピタルを通じて投資するメリットは何か
とはいえ、実務ではやはり「CVC」といえば、実務の文脈では事業会社が保有するベンチャーキャピタルをまずイメージすることになるでしょう。
では、なぜ事業会社は本体でも投資を出来るにも関わらず、「CVC」のようなベンチャーキャピタルをわざわざ組成するのでしょうか。以下、考察です。

1.意思決定を早くするために「CVC」の投資額は多くの場合、本業の売り上げからすればわずかなものです。例えば、「CVC」を抱えているドコモは年間4兆円の売り上げがあります。そんな大企業がベンチャー企業のマイナー出資(買収ではなく)数千万円を複数するのに、いちいち本部の決裁を毎回取っているとなると、ベンチャー業界の素早い動きにはとてもついて行けません。それならば、本体で行うよりも、CVCの活動は子会社やファンドに移管させ、ある程度の予算と決定権を委譲した方が素早い取り組みが出来ます。

2.他社からも資金調達をすることが可能。実務で使う「CVC」はファンドを組成するのが一般的なので、親会社以外からも出資を募ることはよくあります。ややテクニカルな議論になりますが、「ファンド」という概念を理解しなければ、事業会社が運用する「CVC」をきちんと理解することは出来ません。例えば、このリリースでは、「サイバーエージェントベンチャーズ、スタートアップベンチャーに特化した総額50億円のファンド 「CA Startups Internet Fund 2号投資事業有限責任組合」を組成」と書かれています。

先の例で出たサイバーエージェントベンチャーズ(CAV)は、サイバーエージェントの連結子会社であすが、CAVが直接ベンチャー投資をするわけではありません。上記のリリースのようにCAVが「〜投資事業有限責任組合」を組成し、様々な会社・投資家から資金を集め、その集めた資金をもってベンチャー企業に投資をするのです。

このファンドを通じた資金調達(いわゆるファンドレイズ)は、金融機関のベンチャーキャピタルももちろん行います(というかこちらが本家)。大和証券の連結子会社で、ベンチャー投資を行っている大和企業投資も同様にこのリンクにありますように、「〜投資事業有限責任組合」を組成し、様々な投資家から資金を調達し、ベンチャー企業への投資を行っています。

3.「CVC」はR&D的な位置づけ事業会社には本業があります。また、事業会社がベンチャー投資をするにあたっても、必ずしもすぐにシナジーが見込めるとは限らず、CVCはR&D的な要素もあります。なので、本体ではやらずに、子会社にベンチャーキャピタル(「CVC」)を作って、間接的に投資をすることとなります。また、他社からの出資を募って、ファンドを組成して投資をするので、外部の資金を用いることで、小額の元手でより多くの投資機会を得ることができます。例えば、CAVは資本金は3億6千万しかありませんが、50億円ものファンドを組成しています。もちろん、ファンドを運用することになると、他の投資家への説明責任が伴ったりもするので、本体で投資をするよりも、難しい側面も出てきます。

ベンチャー投資は通常数千万円ぐらいの投資を複数、場合によっては数十件行います。失敗したとしても、リスクは投資した金額以上に損失は出ることはありません。これは金融の専門用語でいうところの「コールオプションの買い」の状況です。我々の身近な生活の例でいうならば、「宝くじ」を買うようなものです。株式投資やFX投資で損をした場合は恐らく悔しい気持ちになるでしょう。他方、宝くじであたりが出なかったとしても、株式で損をしたような精神的なダメージはないと思います。それは宝くじは「コールオプションの買い」だからです。

コールオプションの買い」では、オプションの権利を買った瞬間にキャッシュアウトします。その権利購入価格分の損失は確定です。その後、仮に株のオプションの場合、株価が上がればアップサイドを享受できます。他方、株価がどれだけ下がったとしても、最初に購入したオプション金額以上の損失はでません(オプションを行使しない状況)。一方で、株の場合は信用取り引きを含め、ダウンサイドがどれだけ出るかはわかりません。

ベンチャー投資は「コールオプションの買い」の要素が強いため、事業会社の場合、ある程度のバジェットを子会社に持たせて自由にやらせるというが非常にマッチします。他方、投資が本業である金融系のベンチャーキャピタルには、感覚的には「コールオプションの買い」という認識は恐らくあまりないはずです。なぜならば、投資が本業だから、失敗は許されないのです。

4.リアルオプションを持っている状況前回にも書きましたが、事業会社がベンチャー投資をすることで、今後の事業戦略においてリアルオプションを持つこととなります。事業会社がCVCを組成して、ファンドを通じて複数のマイナー出資をすればそれだけ今後可能性が増えることとなります。複数の投資を行うので、本体で管理するよりも、ファンドで管理した方が効率が良くなる可能性があります。

以上、事業会社がCVCを組成するメリットを見てきました。一方で、「CVC」を通じてのベンチャー投資にはもちろんデメリットがあります。一番のデメリットは、主にマイナー出資になってしまうことと、他の投資家との共同出資になってしまうことでしょう。イケてるベンチャー企業に投資をしたい場合、CVCを通じてのマイナー出資よりも、経営権に影響を与えるぐらいの投資をした方がいい時もあります。そのような場合は、事業会社が直接本体で投資をした方が、本業の事業とベンチャーの事業のシナジーをうまく行かせることが出来る確率が高まるでしょう。「CVC」を通じての場合は、他の投資家がいたり、ファンドを通じての投資となるため、シナジー効果の期待は限定的となってしまいます。

ベンチャーキャピタルを通じての投資と事業会社本体での投資
以上のように整理することで、事業会社によるCVCを通じての投資と、本体での投資の特徴が見えてきました。「CVC」を通じて投資をする場合は、主にシードやアーリーステージのベンチャー企業に対してであり、小額の金額を多数のベンチャー企業に出資することが考えられます。小額しか入れないので、他の投資家との協働も重要になってきます。

かたや、レイターステージのベンチャー企業への投資の場合は、「CVC」のようにちまちま投資をするというよりも、本業とのシナジーを考慮に入れて、本体からがっつり投資をすることとなります。

実務では「CVC」という時には、事業会社が持っているベンチャーキャピタルといった狭義の意味で使われますが、CVCとしての活動、本質を考えると、広義の意味でのCVCには事業会社がただベンチャーキャピタルを保有しているという以上の意味があります。

Googleは2006年にYoutubeを買収しましたが、このときマイナー出資しかしなければ恐らくYoutubeの急激な成長は見込めなかったでしょうか。マイクロソフトfacebookに出資をしていたことは有名ですが、当時の出資額は株式総数のわずか1%程です。マイクロソフトとしてはリアルオプションは持っている状況ではありましたが、今のところ、少なくとも私はマイクロソフトfacebookシナジーを感じることはあまりありませんし、そのような話は聞きません。

現在アメリカのベンチャー企業の9割以上は、M&Aでexitしています。すなわち、ベンチャー企業のほとんどが事業会社に買収されることを選んでいるのです。「CVC」は、事業会社にとっては、ベンチャー企業を最終的に買収するためのあくまで手段であり、最終的には事業会社は「CVC」ではなく、本体でベンチャー企業を買収して、自社の本業とのシナジーを得ることで、買収企業する事業会社も被買収企業となるベンチャー企業も加速度的な成長が可能になります。

ちなみにですが、マイクロソフトは2012年4-6四半期に1986年に上場して以来の初めての赤字となりました。マイクロソフトのビジネスモデルで赤字になることは想像しにくいですが、その理由は2007年に63億円で買収したインターネット広告会社アクアンティブののれんの減損処理によるものです。簡単に言うと、ベンチャー企業を高値で買いすぎたものの、当該企業の業績がいまいちなので、損失計上したということです。CVCは事業会社にとってもやはりリスクの高い投資なのです。FacebookはWhats appを約2兆円もの高値で買収しましたが、CVCとして成功するかどうか今後要注目です。