未来の金融をデザインする

主に経済や金融に関する記事や開催した読書会や勉強会の報告を書いております。

【開催報告】2013年8月31日(土)経済英語ディスカッションlight

FEDでも人気のコンテンツ「経済英語ディスカッション」。少しお休みをいただいておりましたが、再開致しました!経済に関する基礎用語や時事ニュースなど初心者・中級者向けの題材を扱う「経済英語ディスカッションLight」。詳細は以下の通りです。

8月31日に久々に経済英語ディスカッションlightを開催致しました。当日は「インターネット教育」をテーマに英語の学び方について議論しました。当日使用したマテリアルは以下の通りです。まず最初にTEDのプレゼンテーションをみて、インターネット教育について学んだ後、Economist誌の記事を全員で交代づつ音読をしていき、インターネット教育について理解を深めました。その後は、英語学習及びインターネット教育の今後の可能性について、英語と日本語を使いながらグループディスカッションを行いました。

10万人が学ぶ教室
E-ducation A long-overdue technological revolution is at last under way

英語を学ぶツールについては、世の中に溢れかえっています。podcastやインターネットから無料で英語の音源を手に入れることが出来、また、スマホipodを使って、一生かけても聞くことが難しいぐらいの英語教材を持ち運ぶことができます。加えて、英会話に関しても、スカイプ英会話に代表されるように、時間や場所に制限されずに、自分の都合の良いときに、英会話をすることが可能です。インターネット教育はこういった傾向をさらに進めることになるでしょう。

そうなれば、「英語が出来ない」ことを、ツールや環境のせいにはもうできなくなります。「英語が出来ない」のは、「英語の勉強をやっていないだけ」と同義として、捉えられてもおかしくない将来が近いうちに来てしまいそうなぐらい、現在は英語を学ぶ環境が整っています。これだけの環境が整っているのですから、英語が必要な人はもうやるしかないのです。我々がこうしている間にも世界中の人達は、インターネット教育を通じて、必至に勉強をしています。インターネット教育は間違いなく、知識を求めている人と、知識を必要としていない、もしくは知識を得ようとしてしない人達の差の広げていきます。大学受験を「人生で一番勉強した時期」として感じさせてしまうような、日本の教育自体にそもそもの疑問を感じずには得られませんが、インターネット教育が今後日本でも普及する中で、大学卒業以降も継続的に学びを続けていくことの重要性を人々が学ぶことが、日本が国際競争力を維持することには不可欠だと感じております。
今回のディスカッションとマテリアルを読む中で、このようなことを考えておりました。

【開催報告】2013年8月18日(土) 企業価値評価勉強会light「合わせて学ぶ会計&ファイナンス入門講座」

真夏の7週連続勉強会の最後は、「あわせて学ぶ会計&ファイナンス入門講座」を課題図書として、同書の著者の一人である田中慎一さんをお招きし、会計とファイナンスの基礎について学びました。詳細は以下の通りです。

あわせて学ぶ 会計&ファイナンス入門講座

あわせて学ぶ 会計&ファイナンス入門講座

前半では、田中さんに企業の財務諸表の見るべきポイントを解説していただき、後半では、メガネ会社3社のケースを使って、グループに分かれて、ディスカッションを行いました。

印象的だったのは、同書のあとがきにも書かれている田中さんの海外出張時のお話です。海外の企業は日本に比べてコーポレートファイナンスに対する理解が格段に進んでおり、中東の現地の上場をしていない企業でも、経営陣がファイナンスに関するスキームや資本構成について、議論が出来るとのことです。今日の中でのお話でもありましたが、事業戦略とファイナンス戦略は表裏一体であり、事業を深く理解するためには同時にファイナンス戦略も理解する必要があり、逆もまた真となります。本書は、日本でも一層コーポレートファイナンスの理解が進むよう、様々な想いが込められて書かれているそうです。

我々FEDも同様の想いと問題意識をもって、今後も英語と日本語のテキストを両方使いながら、グローバルスタンダードのレベルでのコーポレートファイナンスの勉強会を開催していく所存です。今後もマッキンゼー企業価値評価を用いた勉強会は続けていきます。コーポレートファイナンスに興味を持たれた方は是非参加していただければと思います。ご参加お待ちしております!




【開催報告】2013年8月11日(日)金融経済読書会「連続講義・デフレと経済政策」

真夏のFED7週連続勉強会の6週目の勉強会は、慶應義塾大学の池尾和人先生をお招きするという豪華な内容となりました!詳細は以下の通りです。

連続講義・デフレと経済政策 アベノミクスの経済分析

連続講義・デフレと経済政策 アベノミクスの経済分析

池尾先生のご著書を課題図書とし、前半では、池尾先生に主にアベノミクスと金融政策の可能性と限界についてお話いただきました。後半では、課題図書をもとにディスカッションを行い、池尾先生にも適宜議論に参加していただきました。池尾先生によるバランスシートを用いたわかりやすい金融政策の説明で、参加者の皆様も金融政策の理解が一層深まった物と思います。

最も印象的だったのは、池尾先生が金融政策の説明をする中で「銀行の準備預金と国債を入れ替えていったい何が楽しいんだ(意味があるんだ)。」とおしゃったくだりでした。この意味がわかることが金融政策の本質的な理解に深まるものだと確信した次第です。






【開催報告】2013年8月4日(日)金融経済読書会light 新しい経済の教科書

2013年8月4日(日)に「新しい経済の教科書」をテキストとして、金融経済読書会lightを開催致しました。詳細は以下の通りです。

  • 開催日:2013年8月4日(日)9時〜12時
  • 場所:文京シビックセンター 3F会議室
  • 参加人数:23人(主催者含む)
  • 課題図書:新しい経済の教科書

「新しい経済の教科書」を課題図書として扱うのは実は3回目です。「新しい経済の教科書」は3年前から毎年4月〜5月頃に発売されています。毎年最新の経済理論や経済トピックが紹介されているので、ご興味をもたれた方は来年も是非買ってみてください。

今年の「新しい経済の教科書」の目玉は、「国家はなぜ衰退するのか」の著者の一人であるアセモグルと、「貧困の経済学」の著者の一人であるデュフロのインタビューです。二人とも若手でアカデミックでも実績があるうえに、象牙の塔にとどまるだけでなく、積極的な政策提言を行っている超一流の経済学者です。実際二人とも、ノーベル経済学賞の登竜門と呼ばれている、40歳以下の経済学者が対象となる「ジョン・ベイツ・クラーク賞」を受賞しています。

その他、スタンフォード大学の星先生と池上彰氏のアベノミクスに対する対談、若手研究者による最先端の経済学のトピック等盛りだくさんの内容となっております。当日の参加者でのディスカッションも多方面に話題が広がり、大盛りあがりとなりました。また来年も「新しい経済の教科書」を課題図書として、新しい経済の教科書の勉強会を開催する予定です。

【参考文献】

新しい経済の教科書 (日経BPムック)

新しい経済の教科書 (日経BPムック)

新しい経済の教科書2011年版 (日経BPムック 日経ビジネス)

新しい経済の教科書2011年版 (日経BPムック 日経ビジネス)

新しい経済の教科書2012 (日経BPムック 日経ビジネス)

新しい経済の教科書2012 (日経BPムック 日経ビジネス)

国家はなぜ衰退するのか(上):権力・繁栄・貧困の起源

国家はなぜ衰退するのか(上):権力・繁栄・貧困の起源

貧乏人の経済学 - もういちど貧困問題を根っこから考える

貧乏人の経済学 - もういちど貧困問題を根っこから考える

ロンドンで学んだ英語学習の限界と可能性

FED事務局長です。会社の海外研修でロンドンに来てから早い物でもうすぐ一ヶ月が経ち、今週末には日本に帰国します。
先日偶然日経で、フィリピン英会話の記事を発見しました。ロンドンに来てから、英語について色々思うところがあったので、以下にて自分の考えをまとめます。

去年の10月に妻と一緒にフィリピンの英会話学校の合宿に5日に参加しており、上記記事で書いていることは、大体体験しました。正直記事としては少し盛っている感もあるとも思いました。というのも、韓国から来る大学生はモチベーションが高くない人がけっこうな割合でいますし、授業をさぼっている人もいたからです。確かに大学から強制で行かされているということもあり、モチベーションにばらつきがあるのは仕方がないと思います。そのような状況の中、日本人は普通に宿題をしてきただけでも、ほめられるような感じです。

上記の記事だけ読めば、とてもハードのよう印象を受けますが、フィリピンで朝から晩までずっと集中し続け、根をつめてやれる人はあまりいないと思いますし、正直ぐだぐだな授業もありました。環境としては、確かに英語尽くしですが、私が受けた授業では、1時間半ずっと発音だけやり続けているものや、日本人にとっては簡単すぎるグラマーの授業、簡単な劇を英語でする授業など、正直英語力の向上に対して効果は限定的なものもけっこうありました。もちろん、これらが決してすべてなわけではなく、マンツーマン授業や夜7時から始まるTOEICのテストと英語で行われるその解説の授業等、非常に有益なものもたくさんありました。また、結果として、私自身としては、かつて1ヶ月間オックスフォードで英語学校に通った時よりも、1週間フィリピンの英語学校でスパルタ授業を受けた時の方が、学習効果はあったと思います。

私は、フィリピンでの短期留学をする半年程前から、フィリピン人とのスカイプ英会話を続けおり、ロンドンに来ても、スカイプでフィリピン人と英語で話しています。フィリピン人とは普通に会話できますし、発音も問題ないとフィリピン人からは言われます。特に、経済の話題になると俄然話せるので驚かれたりします。

このようにしてフィリピン英会話で鍛えてきた英語力ですが、ここロンドンでは驚く程に、そして悲しい程に英語が通じませんでした。また、聞き取りもあまり出来ませんでした。下記に書かれている「フィリピン英会話はアメリカで通用しない!」という記事にはとても共感しました。というか、このことをまさにこちらで体験しました。以下は本記事からの引用です。

「清水氏は自身を「ドメスティックな日本人が、フィリピン英会話で英語を鍛錬して、アメリカに留学して、英語で苦労した」典型的ガラパゴス日本人と形容する。グローバル社会に対応することを目指しながら苦悶する多くの日本人と等身大の思いでスキマトークを立ち上げた。」

ここで、恥かしながら改めて私の英語スペックをご紹介します。

  • 【資格】TOEIC850点(うちlistening430点、reading420点。2012年12月)。
  • 【Reading】大学院時代は、教科書は英語、論文も英語だったので、読むことに関してはそれなりに出来る。
  • 【Reading】社会人になってからは、勉強会を開催し、Mankiwの「Principles of Economics」を3年かけて、Allenらの「Principles of Corporate Finance」を1年かけて、英語で全読破。
  • 【Reading】現在進行形でKrugmanらの「International Economics」とマッキンゼーの「Valuation」を英語の教科書を使って勉強会を開催中。
  • 【Speaking】2011年頃より、FEDにて、経済の論文を英語で読んで英語で議論する経済英語ディスカッションを、また簡易版として経済英語ディスカッションライトを友人の助けを得て開催。累計開催回数は20回程。
  • 【Speaking】2012年4月から初めたレアジョブの累計時間は、2013年6月時点で200時間越え。articleの記事の本数でいえば400本以上読んでいる。
  • 【writing】今年に入り、KrugmanのInternational Economicsの勉強会のレビューを英語で記載。ライティングのレベルは、本ブログを見ていただければと思います…。
  • 【海外生活】高校生の時にカナダで2週間、会社に入る前の2006年3月の約1ヶ月間オックスフォードの語学学校に通う。今回のロンドン滞在はこの時以来の長期海外滞在(短期での海外旅行を除く)。

英会話教室に通ったことはなく、典型的な日本の英語教育と受験勉強で英語を学んだだけです。レアジョブを始めてからは、以前に比べて英語を話せるような感覚になってはいたのですが、ロンドンに来て、そのわずかな自信さえも打ち砕かれました。

かといって、フィリピン英会話が無駄かと言えば、そうとも思いません。英語を話す抵抗をなくすであったり、継続的に英語をするといった点については非常に有益です。ビジネス書作家でもある酒井穣さんは、以下のことをブログで書かれています。

「英語の学習に必要となる時間は、膨大なものです。覚悟を持って、毎日おこたらず、しっかりと勉強を続けないと、英語を習得することはできません。テクニカルには、自分の「典型的な一日」を思い出したとき、そこに英語学習の時間がない人は、生涯、英語力を身につけることはないでしょう。

この話を直接酒井さんから伺った時、「典型的な一日を思い出した時に、「英語学習」を入れる」と決意しました。英語を習慣化が出来たのは間違いなくフィリピン英会話のおかげです。英語学習を習慣化するという点では、フィリピン英会話はコストも想定的に低く、非常に役に立ちました。

しかしながら、現時点の判断として、このまま継続的にフィリピン英会話を5年続けたとしても、アメリカやイギリスで「使えるレベルの英語」までになるのかといえば、難しいと思います。実際フィリピン英会話の先生に聞いたところ、3年〜5年フィリピン英会話を続けている生徒でもあまり話せない人はたくさんいるそうです。(ただし、英語が話せないのか、会話の中身のある英語が話せないのかのどちらかはわかりませんが)

では、そもそもなぜ私の英語はそれほど通用せず、そして聞き取りもあまり出来ないのでしょうか。このことを考えるために、まずは日本人で「英語が出来る」人を考えてみます。ここで「英語が出来る」とは「ビジネスレベルで使える」という定義にします。まずは「帰国子女や学生時代に留学経験がある」という方です。私の回りにいる英語の出来る方は、ほとんどがこのどちらになります。次は、社会人になってから、海外で学位を取得した人達、MBA留学者、そして海外勤務経験者になります。実はこの点がポイントです。社会人になった時点で、英語があまり出来ない人は、留学や海外勤務をすれば、英語が出来るようになると思う傾向があります。実際私もそうでした。ですが、この考え自体に大きな間違いがあると気がつきました。

もちろん、海外留学や海外勤務を経て英語が堪能になる方はたくさんいらっしゃいます。と同時に、留学や海外勤務を経ても英語が出来ない人がけっこういることも事実なのです。例えば、以下のブログでは、海外留学を経ても英語が出来ないということが赤裸裸に書かれています。

ロサンゼルスMBA留学記
MBAの学生はみんな英語ペラペラ――これは残念ながら、嘘だ。なにを隠そう、筆者は英語がしゃべれない。もちろん授業が全部英語で、教科書も英文という中、ちゃんと卒業できるだけの成績を取得しているのだから、まったくしゃべれないわけではない。それでも、ペラペラというには程遠い。

へっぴり腰おやじのコロンビアMBA卒業寸前日記
プレゼンの疲れを癒そうといそいそと参加し、友人3人と一緒の席でビールを飲みながら食事をする。しかしだ、そこでふと嫌なことに気がついてしまった。僕以外の3人が話していることが、さっぱり分からんのだ。10%くらいしか分からん。1年前から何も進歩していない。普段は分からないと聞き流すところを、今日はマジメに聞き取ってやろうと全身全霊をこめて努力したが、やっぱりダメだった。

MBAホルダーが語るノンネイティブへの道
TOEIC900オーバーとか、英検1級とか、MBAとか、履歴書だけは立派ですが、今の私は電話会議を聞き取れないただの役立たずです。これからどうしようか考えた結果、「会社にいれば自然と英語力がアップする」という甘い考えは捨て、もっと自主的に英語学習を進める事にしました。

私は研修で1ヶ月ロンドンに滞在しただけですが、このまま1年いたら英語力があがり、英語がぺらぺら話せ、すらすら理解できるようには到底思えませんでした。2年間MBA留学した人はどうなんだろうかと思い、色々調べてたどり着いたのが、上記のブログの記事でした。繰り返しになりますが、もちろん人にもよると思います。ですが、私の語学センスで言えば、海外勤務をしようが、英語を伸ばす意識をしなければ、あまり伸びないと感じました。

ロンドンでは、ロンドンに赴任している30歳前後で金融機関に勤めている日本人コミュニティの人達とも話しました。これも人によりますが、けっこう英語を苦手にしている人が多かったです。印象的だったのは、ロンドンに駐在している方が、大学で1年間留学し、今回短期出張として1週間だけロンドンに来ている人に対して、「1年留学したぐらいじゃ英語なんて出来ないしょ。さすがに1年じゃ無理だよね」と言っていたことです。さらに、海外赴任3年目の方も「日々の業務はこなせるけど、正直英語はあまり出来ないよね。」とも言っていました。また、大学院の同期が1年間ニューヨークにトレーニーとして赴任し、帰国した際に「海外にすめば英語が出来るようになるのは幻想だ。」と言っていて、当時は謙遜かと思いましたが、今になって言わんとしていることがわかったような気がします(といっても、彼は相当に英語が出来ますが。)。

社会人になるまで、海外生活経験がほとんどなく、海外駐在している日本人の英語力の現実はこれだと思います。私自身研修で英語があまり聞き取れず、ネイティブ同士がナチュラルスピードではなしている時は、ほとんど何を話しているのかわかりませんでした。

不思議なのは、高校や大学で1年間程留学していた人は、かなり英語が出来る人が多いということです。理由はわかりませんが、やはり年齢が関係あるのでしょうか。統計を取ったことがないので感覚的となりますが、30歳前後から、真剣に英語を勉強して、ネイティブと渡りあえる英語力を身につけた方はかなり稀だと思います。

では、外資系企業で働いている、海外経験のない日本人はどうでしょうか。私の体験談になりますが、帰国子女や学生時代の留学経験者の方以外は、英語を得意としていない人はけっこう多そうです。伝説のディーラーと言われた元モルガン銀行東京支店長の藤巻健司さんは、MBAを取得し、日系金融機関のロンドン支店でも働いていた過去を持ちますが、著書を読む限り、英語は得意としていないようですし、社内でも秘書からは英語が出来ないキャラ扱いをされていたそうです。

私の場合も社会人1年目と2年目は半分以上が外人の部署で、部長も外人でした(当時は私が所属していた部署は、完全に外資系金融の社風でした)。毎週月曜の会議は英語で報告し、私も自分の業務を英語で報告していました。メールも英語のやり取りが飛び交っていましたし、チーム内でも英語が頻繁に話されていました。私はというと、日本案件を担当していましたし、直接の上司は日本人だったため、日々の業務にはまったく困りませんでしたし、この2年間は、それほど気合いを入れて英語の勉強をしていなかったので、英語力という点ではむしろ下がった2年間でした(TOEICは735から620ぐらいに下落)。端から見れば、完全に外人のチームですが、英語が読めて、多少書ければ、実務にはそれほど苦労しませんでした。

他の外資系企業の状況はわかりませんし、チームにもよると思いますが、私のケースが完全に例外という訳ではなく、似たような状況は多少なりともあるのではと思います。フロント最前線で取引先と英語でがんがん交渉をするという場合を除いては、外資系企業においても、英語が最低限できればとやっていくことができ、英語がペラペラですらすら聞き取れるというレベルになるためには、たとえ、外資系企業で働こうが、業務とは別にプラスアルファかなりの英語を学ぶ努力を必要があるものと思われます。

これまでの議論をまとめますと、ありきたりな結論になりますが、事実として、社会人になってから、真剣に使える英語を身につけようとした場合、海外に住んでいようが、留学しようが、かなり困難を伴うということです。

繰り返しになりますが、人によるとは思います。ですが、間違いなく言えるのは、20代前半までに海外経験がない方が英語を改めて勉強し始め、使えるレベルに到達するまでには、日本でなんとなく英語を勉強しているだけではかなり難しいということです。酒井さんが指摘しているように「典型的な一日に英語の勉強会がない」人の場合は、残酷な事実ですが、英語を使えるレベルにはするにはほぼ不可能といっていいでしょう。「散歩のついでに富士山に登った人はいない」とよく言われますが、英語についてもこのことは当てはまると思います。

となると、英語を身につけるためには、恐らく一般に思われているより相当な努力を要することが容易に想像できます。ロンドンに一ヶ月滞在した身としては、このレベルはリアルに感じられます。本音のところ、「英語で外人と話せるようになればかっこいい」ぐらいのモチベーションで英語を学んだ場合、コストとリターンは見合わないと思います。

英語を本気で学ぼうと思った場合、しっかりとした原体験とモチベーションがないと、いつまでたっても英語は身に付きません。私の英語に対するモチベーションをロンドンで再度考えました。私のモチベーションの源泉は主に以下の3つです。

1.金融業務の幅を広げるため
金融業務はいうまでもなく、国際的な業務です。金融機関が基準金利に使うLiborはロンドンのマーケットで決まりますし、資金は世界各国を巡っています。日本で業務を行っていても、業務上のカウンターパーティーが外国人の方になることも多々あります。仕事に飽き足らず、FEDを通じて、「未来の金融をデザインする」ことを標榜している身としては、英語の習得は不可欠と言えます。実際、ロンドンで研修を受けて、外国の方と多く話す中で、改めて金融は海外業務と感じました。普段業務で日本人同士話している「Equity」「Debt」「DSCR」と言った言葉を使いながら、外国人と話をした時は、金融用語は世界各国共通なんだと実感しました。

2.経済学を学んできたため
私は大学、大学院とで経済学を学び、社会人になってからもFEDを通じて経済学の勉強を続けていますし、懸賞論文に投稿もしています。経済学もむろんグローバルな学問で、英語は不可欠です。大学の時にそれほど英語の教科書を使って勉強をしていなかったものとして、大学院に進学した際に、教科書がすべて英語で、黒板も英語だった時のプレッシャーは今でも忘れません。

今回ロンドンに滞在した際に、LSEで行われていたセミナーに参加しました。当たり前ですが、英語の通訳はありません。講師の講演が終わった後に、フロアーからの質問タイムがありました。驚いたのは、みんないっせいに手を上げていたことです。あまりに手を上げる人が多いので、一回で3人から質問を聞き、プレゼンテーターがその質問に連続で答え、また3人から質問を受けるという流れを4〜5回続けていました。日本における経済系のセミナーにはそれなりに参加しましたが、日本ではまず見られない光景です。しかも、質問者には女性も多く、国籍も多彩でした。内容が、グローバルインバランスと言うことで、私も興味がある分野なので、是非質問をしたかったのですが、とてもあの場で手を上げてたどたどしい英語で質問できる状況ではなかったです。このシーンは非常に刺激的でしたが、同時に悔しくもあり、いつかはFEDを通じてのグローバルな勉強会をしたいと思いました。

またその二日後にLSEで、アジア人唯一のノーベル経済学者であるアマルティア・センの講演も行われました。人数制限があり、直接会場には入れませんでしたが、幸いには、別の棟で生中継を見ることが出来ました。ここでも残念だったのが、センの英語を聞き取れないために、講演内容がほとんどわからなかったことです。センの公演中、後ろに座っていた二人が立ち上がったので、「せっかくの機会なのにもったいない」と思ったのですが、その数秒後、センの講演は終わっていました。締めのタイミングさえもわからなかったのです。いくらノーベル経済学者が講演をしようが、内容がわからなければ、まさに馬の耳に念仏です。

3.グローバル経済に対応するため
中国、シンガポール、フィリピンといったアジアの国にいって感じたのは、「グローバル社会において英語を使えるのはもはや当たり前」という現実でした。日本においては、「仕事でも特に今は英語は使わないし、使うようになってから勉強すればいい」という声がよく聞こえています。ですが、そのような状況になって初めて英語を勉強して間に合うのでしょうか。

私が今回ロンドンに行くことが出来たのは、意図せず結果として、2年程前からいつかに備えて、こつこつ英語を勉強していたからです。TOEIC850点という結果も客観的な英語力を証明するのには手助けとなりました。それでも、ロンドンでは英語はほとんど通じませんでした。研修においても、アジア、ヨーロッパ、中東といった様々な地域から来た参加者の中では私はダントツに英語が出来ていませんでした。というか、厳密に言えば、英語を使えていないのは、私ぐらいでした。

日本人には英語が出来ないが優秀な人はたくさんいるという事実は間違いなくあると思います。しかし、今回ビジネスを通じて海外出張する中で、英語が出来ない人が多い割合の日本企業が本当にグローバル競争の中で勝ち残っていけるのか、という疑問がふとわいてきました。このような問題意識を持った時に読んだのが、NPO法人クロスフィールズの小沼さんが書かれた「世界経済フォーラム東アジア会議に参加して」というタイトルのブログでした。そこには以下が書かれていました。

日本では、"英語はできないけどスゴい優秀なヤツ"っていうのが結構多いような気がする。でも、おそらく東南アジア諸国や南アジアでは、そんなグループに属する人はほぼ存在しないのではないだろうか。

アジアの若手リーダーの多くは、徹底的に英語で教育を受けられるようなエリートコミュニティの中からが輩出される。また、そうでない場合も、その人材が優秀であれば、早い段階で国外でプレゼンをする機会や国外で学ぶ機会を否応無しに与えられるので、英語での議論がまともにできない優秀なリーダーが育つということは、非常に稀なのだと思う。

非常に納得しました。世界で優秀な人はそもそも英語で教育を受けているので、英語が出来て当たり前なのです。しかも、英語という言語はプレゼンに向いているのか、ロンドンで参加した研修での参加者の英語でのプレゼン力にも驚かされました。わずか15、6人の研修でしたが、皆抜群に上手でした。声も大きく、堂々と話します。もちろんほとんどの方が英語を第二外国語として使っています。日本でこれだけプレゼンを上手な人を集めるのは至難の業だと思いますし、このレベルのプレゼンが出来る人は、日本語であろうが、英語であろうか、私が知っている範囲でも、数える程しかいません。ですが、世界ではこのレベルが一般的なのです。確かにTEDを見ていても、なぜみんなこんなにプレゼンがうまいのだろうと、いつも思っていたのですが、どうやらTEDのプレゼンレベルがグローバルスタンダードのようです。

以上が、私が英語を学ぶモチベーションとなります。ここまでの論点を整理すると、

  • 30歳を超えて英語を身につけるのはかなり困難。並の努力では無理
  • 英語はグローバル社会では遅かれ、早かれ不可欠。金融業ならばなおさら

となります。当たり前の結論ですが、身を以て体験した身としては、上記の事実は非常にリアルに感じます。今回のロンドン滞在1ヶ月を通じて、日本に帰国してからの英語学習が本当の勝負だと思っています。海外に行けば、英語が出来る訳ではないという事実もあることから、安易に「いつか英語が出来るようになる」という考えは捨てます。

現在は英語を学ぶためのネット環境が整っていますし、日本でも英語で行う勉強会、例えば、「Economicstを読む会」や「English Vitamin」があるので、これらを積極的に活用・参加する予定です。もちろん、経済英語系の勉強会をこれまで実施してきたFEDとしても一層英語の勉強会にも力を入れていきます。幸いにも、FEDの勉強会に来てくださる方は、英語が出来る方も多いです。英語でしか手に入らない情報を使って、英語で議論をしながら「未来の金融をデザイン」していきたいと思います。

英語学習の具体的な内容としては、レアジョブの継続、単語力の強化、音読、シャドーイング、多読、TEDを字幕なしでみる、英語ブログの継続、英語の勉強会への参加、といったことを継続的に続けるしかないと思っています。英語がそれほど得意ではない駐在員の人達を見て、30歳を超えてからの英語学習はひらすら量でカバーすることが求められる、というのが、ロンドンで得た気付きです。

長くなりましたが、以上が、ロンドンに1ヶ月滞在したことで感じた英語習得についての限界と可能性についてでした。

写真はロンドンのLSEです。記事とは特段関係はありませんが。

正しい判断は最初の3秒で決まる

本書は、人間の最大の武器である「直感」と「信念」について書かれています。MITのマカフィーらの「機械との競争」*1で紹介されている現状やプロ棋士がコンピューターに負ける現在では、人間特有の「直感」と「信念」は一層重要に感じられます。

「直感」と「信念」と書くと抽象的な議論のようですが、著者の経験に加え、古典といった過去からの知恵、さらには最新の学問的知見等を引用しながら、どのようにすれば「直感」と「信念」を活かすことができるのかが詳しく、そして実用的に考察されています。

本書の最大の特徴は、プライベートエクイティファームという、企業を買収し、企業価値を上げることを業務とする、極めて専門的な業務に携わっている著者が書いている点にあると思います。実際、30ページ以上もある「はじめに」では、企業に投資をする際の仮説を例に、企業における直感と信念について言及しています。まさに企業の現場にいる著者だからこそ、圧倒的なリアル感をもって「信念」と「直感」の重要性を説くことができるのでしょう。

実はM&Aに携わっている人が書いている本は世の中にたくさんあります。コンサルティングファーム出身者や投資銀行出身者が書くのはその最たる例でしょう。事実、海外のMBAで使われるマッキンゼーの「Valuation」はコンサルティングファームの人達によって書かれています。他にも、コーポレートファイナンスを専門とする学者が書くような学術的な本、大企業経営者経験者やベンチャー企業の社長が自らの体験を元に書くビジネスの本、弁護士や会計士が書く実務的な本等、M&Aに関連する書籍には枚挙に暇がありません。

他方、不思議なことに、実際に企業の買収をする「プライベートエクイティ」業務に携わっている人が書く本は、上記に比べ圧倒的に少ない状況にあります。その理由はおそらく直接的にプライベートエクイティファームに携わっている人自体が少ないからだと思われます(恐らくですが日本で200人ぐらいでしょうか)。なお、企業と企業の買収を仲介する、M&Aの「アドバイザリー業務」に携わっている人(主に投資銀行マン)が書く本はたくさんありますが、実際にM&Aの後から本格的にビジネスが始まるプライベートエクイティ業務は、投資銀行の扱っているM&Aの分野とは、似て非なる分野であり、この分野を経験して本を書いた人は圧倒的に少数です(そもそも日本でプライベートエクイティ業務が始まったのは、2000年前後で、アメリカでさえも1980年代後半なので、それは仕方がないと思います)。

ただでさえ、プライベートエクイティ業務に携わっている人が企業を例に「直感」と「信念」について書くとなると俄然興味が出るところ、本書の凄いところは、著者の実務経験を元に決して一人よがりになるのではなく、著者のアカデミックバークボーンを最大限に活かし、経営学、歴史、脳科学、古典、自然科学、東洋思想等様々な文献を引用し、著者が考える「直感」と「信念」についての仮説を強力に補完しているところにあります。

実務のところだけを読めば、M&Aやファナンス業務に携わった人は書けるかもしれません。引用文献の内容については、アカデミックや古典に精通している人は馴染みがある書籍もいくつかあるかもしれません。人の感性やモチベーションに訴える部分は、NPOに携わっている方が比較優位にあるパートだと思います。

それぞれを別々に書ける人は、たくさんいると思いますが、実務がわかって、実務の現象を適切にサポートできるアカデミックな分野を引用でき、かつNPO活動を通じ、人の心に訴えることが出来る文章を書ける人は、恐らく著者だけです。

著者の前2作はどちらかといえば、著者のNPOでの活動がメインとなって書かれた印象がありましたが、本書、特に序盤は「投資プロフェッショナル」全開の著者が垣間見えます。本書が100年後も読み継がれる真の「古典」になることを祈って、レビューを終わらせていただきます。

*1:

機械との競争

機械との競争

ひらめきとイノベーションの授業

ひらめきとイノベーションの授業

ひらめきとイノベーションの授業

本書の概要
本書では、どのようにして新しいもの、イノベーティブなものが生まれるのかを、図や絵をたくさん交えてやさしく紹介しています。「イノベーション」という言葉自体はコモディティのように世の中にあふれていますが、具体的には何がイノベーションなのか、そしてどうすれば起こすことが出来るのかを、自分の言葉でわかりやすく説明できる人は、私を含め、あまりいないのが実際だと思います。著者が自身の体験をベースに自分の言葉でわかりやすく、同時に決して自身の思い込みではなく、過去の様々な研究を紹介しながら、イノベーションを説明しているところに、本書の特徴があります。本書のメッセージを一言でいうならば、「新しい物を作る際に最も重要なことは、その人の強烈な思いである」ということになります。このことを説明する過程で、イノベーションを起こすための方法として、ブレストのやり方、習慣化の方法、チームの作り方を著者ご自身の体験を踏まえながら、紹介しています。

自分自身に嘘をつくということ
その中でも私が一番印象に残っているのはP69の「人間は自分自身にも嘘をつくことがある生き物なので、その点はよく考える必要があります」という箇所です。この一文を読んで、なぜ自分の考えを人に説明するのかが難しいのかわかった気がしました。それは、人は自分に対してさえも嘘をついてしまうからです。嘘の考えを人に伝えて、人に思いや考えが伝わるはずがありません。自分が自分に嘘をつくということを今まで認識していなかったので、この文章は強烈でした。そして、この「自分に嘘をつく」ことが実際にイノベーションの阻害につながるのだと思います。

私が好きなジョブズのスタンフォード大学での講演があります。「stay foolish, stay hungy」で有名なあの講演です。このスピーチを300回ぐらい聞いたときに、ジョブズが言わんとしていることが、徐々にわかってきました。私が考えるジョブズの本スピーチのエッセンスは「follow your heart」、すなわち、「自分に正直であれ」です。実際、このスピーチでは「connecting dots」「愛」「death」の三つの話が出てきますが、どの話にも「follow your heart」的なことが出てきます。

  • You have to trust in something — your gut, destiny, life, karma, whatever.
  • As with all matters of the heart, you'll know when you find it.
  • You are already naked. There is no reason not to follow your heart.
  • Don't let the noise of others' opinions drown out your own inner voice.
  • And most important, have the courage to follow your heart and intuition.

こういったことを踏まえた上で、ジョブズが引用している「stay foolish, stay hungry」という言葉は、結局のところ「自分の正直であれ。世間からみて馬鹿に見えても、そのままで居続けろ、自分の心にどん欲であれ」と言っているのだと私は解釈しました。

「自分の心に正直である」ことなんて、シンプルで簡単だと思いますが、慎さんも指摘しているように、人は自分にさえも嘘をつくので厄介です。ジョブズはそのことを心の底から理解し、そして、一見シンプルな「自分の心に正直である」ことが今の世の中、実は最も難しく、このことがイノベーションを阻害している要因だということがわかっていたのではないかと思います。

イノベーションとインセンティブ
大人になればなるほど、人間関係のしがらみは複雑で大きくなるものです。その理由は人々のインセンティブが多岐に渡るからではないでしょうか。そうなると、自分自身が何を考えているかさえもよくわからなくなってしまいます。上司から「イノベーティブなものを考えろ」と指示されて、イノベーティブなものを作れた例を聞いたことがありません。本書でも多く紹介されているように、イノベーションは本人の強い思いから生まれます。自身の心に正直であると、自分が感じる世の中に対する違和感を容易に感じ取れます。この思いが強ければ強い程、行動に結びつく。こういった人達が世にいうイノベーターではないでしょうか(もちろん行動する中で、思いが芽生えていき、さらに行動を強化するという循環もあります)。

私は今年の1月1日から毎日日記を書いています。別にfacebookやブログに公開するわけではありません。書く理由は、自分がその日その日に何を考えているかを整理するためです。言い換えれば、自分の心と対話をするためとも言えます。人に見せることを前提としていないため、へんに格好をつけたり、恥ずかしく感じることもありません。悩み事があっても、落ち着いて自分の考えていることを文章に落としてみると、不思議な物で、何が具体的に悩みなのかもわかってきて、同時に自分にとって本当に大切なものも見えてきます。こういった背景もあり、「自分の気持ちに正直になる」ことの重要性は非常に共感できました。

本書を通じて、思いに関してより 興味を持った方は、同じく慎さんが書かれた「正しい判断は、最初の3秒で決まる 投資プロフェッショナルが実践する直感力を磨く習慣 」をお勧めします。こちらのテーマは「直感」と「信念」です。本当に素晴らしい本で、一人でも多くの人に読んでもらいたいと思い、会社の人にも配りました。

イノベーションについての方法論はほぼ確立されています。後は、個々人の思いです。この点については、他力本願では間違いなく無理でしょう。自分の気持ちに正直になるためにも、強くお勧めする一冊です。