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一万円と二万円のどちらが欲しいですか

f:id:fedjapan:20141112135817j:plain「1万円と2万円のどちらかをもらえる場合、どちらを選びますか」
このような質問をされた時、ほとんどの人が2万円を選択するものと思います。答えるまでもない質問でしょう。では、次の質問はどうでしょうか。

「今すぐ1万円をもらえるのと5年後に2万円をもらえるのはどちら選びますか。」この質問になるととたんに判断は難しくなります。人によっては今すぐ1万円を欲しい人がいるかもしれませんし、運用利回りの観点から5年後の2万円を選ぶ人もいらっしゃるかもしれません。

このように「AとBのどちらがいいか」という質問と「今のAと将来のBのどちらがいいか」という質問は本質的に別のものとなります。日常において似たような例に我々は多く直面します。学生ならば夏休みの宿題を夏休みが始まった直後にすぐ始めるのか、もしくはギリギリまで先延ばしをしてしまうのか等がありますし、社会人においては頼まれた仕事をすぐするのか、今日はせずに別のことをやるのか等があげられます。

宿題にしろ、仕事にしろ、最終的には取り組むということ自体は同じのですが(宿題や頼まれた仕事をしないという意思決定ももちろんありえますが、そのことは捨象します)、先にやるのか後でやるのかで精神的な負担の感じ方も代わってきますし、実際の行動の時間差が別の行動や意思決定にも影響がする可能性もあります。

このような時間の選択(異時点間選択)において、どれだけ「現在を重視しているのか」ということは、経済学では時間割引率という概念で表されます。現在をより重視している場合は、時間割引率が高いということになります。

そして、行動経済学は「時間割引率は従来の経済学で想定されていたものよりも高い(人は現在を重視しがちである)」ということを実験で示しまた。すなわち、人は現在を重視しがちということです。例えば、ダイエットをしなければならないがいまケーキを食べたい、そろそろ勉強をしなければならないが今見ているテレビが面白いのでそのままテレビを見たい、夏休みの宿題をやらなければならないが今は遊びたいので先延ばしにする、そして5年待てば倍の2万円がもらえるものの今の1万円が欲しいというようにです。このような意思決定が現在にバイアスをかかってしまうようなことを説明する概念が「双曲割引」と言われています*1

行動経済学が示した重要なメッセージは「人は現在を重視する傾向にある」こと、そして「現在を重視するがゆえに、合理的に説明がつかないような行動をすることがある」ということです。個人単位ではダイエットや勉強、仕事といった話になりますが、これを国単位や企業単位で見た場合、将来に後回しをするのではなく、今すべきことが、現在の惰性を重視することで先延ばしされる可能性があるということです。国で言えば、消費増税、企業で言えば組織改革等がそれに当たります。

「我々は現在を重視しがちである」といったことを踏まえた上で、現在を重視するがゆえに陥ってしまう先延ばしの罠に対して、どう対応すべきかを考えることが我々にとって重要です。そして、その対応の一助となるのがまさに経済学だと考えます。

*1:将来の価値を割り引くという考え方自体は昔から経済学でもあります。例えば将来の1万円を現在に割り引くと9,000円になるといったような現在価値の議論がまさにこれです。伝統的な経済学においても異時点間の選択の問題はよく出くわします(動学モデルなんてまさに異時点間をどう考えるのかそのものです)。例えば、消費をするのか、貯蓄をするのか(貯蓄に回して将来消費をする)といった消費の理論は、マクロ経済学において最もオーソドックスかつ重要な論点の一つです。