未来の金融をデザインする

主に経済や金融に関する記事や開催した読書会や勉強会の報告を書いております。

【開催報告:2016年6月5日(日)金融経済読書会「Who gets what」】

市場をテーマに取り上げる読書会3部作の第2回目は、2012年にノーベル経済学賞を受賞したアルビン・ロス著の「Who gets what」を課題図書にして、読書会を開催しました。

前回課題図書として取り上げた「市場を創る」において主に取り上げられていた市場は、例えば電力市場や金融市場のように、取引を行う対象の質がほぼ一定であるいわゆるコモディティに関する市場でした。このコモディティ市場においては、価格メカニズムを有効に機能させるための制度設計が重要になってきます。
他方、労働市場における就職活動時のマッチング、学校選択、臓器提供等は価格メカニズムを有効に機能させて最適な配分を達成するには困難な対象です(そもそも臓器の売買は、イラン以外は法律で禁止されています。)。本書では、このような価格メカニズムが必ずしも有効に機能しない状況におけるマッチングの研究内容を解説した本となります。
マッチングとは、本書の定義を用いれば「私たちが人生の中で、自分が選ばれるだけでなく、自分も相手に選ばれなければ得られない多くのものを手に入れる方法を指す経済学の用語」(P10)となります。
例えば、研修医と病院のマッチングを考えてみます。とても人気がある病院には多くの研修医が入りたいと思います。もちろん、病院には受け入れることができる研修医には限りがあります。他方、優秀な研修医は多くの病院が受け入れたいと考えますが、そもそも優秀な研修医は一つの病院にしか行くことが出来ません。このような状況では労働の対価としての賃金を価格として、価格メカニズムを機能させることができません。では、このような状況ではどうすれば最適な組み合わせを達成できるのでしょうか。
読書会当日では、プレゼンテーターのアレンジで、実際に研修医と病院のマッチング状況を想定し、それぞれのグループにおいて、病院と研修医の二手に分かれて、病院と研修医の選好(第一希望、第2希望はどこか等)を仮定した上で、実際にマッチングを行いました。
今回実際に行ったGale & Shapley のアルゴリズムの具体的な仕組みについては本書のP192を参考にしていただければと思いますが、3グループに分かれて行った研修医と病院のマッチングにおいて、Gale & Shapley のアルゴリズムを使うことで、3グループとも同じマッチングを達成することができ、参加者からは驚きの声が多数上がりました。最初は研修医が病院を選ぶという順番で行ったのですが、後半では逆に病院が研修医を選ぶという順番でもGale & Shapley のアルゴリズムを実施したところ、最初と同じ結果が得られ、これまた感動にも近い驚きの声が上がりました(なお、安定マッチングは複数均衡ある可能性があるので、毎回同じ結果になるとは限りません)。
当日は、学生時代にマッチング理論を選考していた方がプレゼンをしてくださるとともに、上記のようなマッチングの実践をしてくださったり、参加者からのご質問にご丁寧に答えていただきました。この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。
加えて、実際に研修医マッチングを経験がしたことがある方の実体験の話を伺ったり、保育園のマッチング問題、就職活動におけるマッチング問題、はたまた合コンでのマッチング等多岐にわたる論点についてディスカッションを行いました。
経済学については、「仮定が非現実的だ」「人は経済学が想定するように合理的ではない」「市場は経済学が言うようにうまく機能しない」といった批判がよく行われています。確かにそう言った一面があるのは事実でしょう。一方で、マッチング市場の整備のように経済学の理論的知見が実際に現実に使われるとともに、経済学が世の中の制度設計に貢献しているのも事実です。特に臓器提供や学校選択、そして研修医マッチング等多くのマッチング市場において、理論と実践への往復が複数回なされることで、理論的にも深化するとともに、現実の適用の場においても一層洗練されて使われるようになってきます。
世の中には制度を通じて非効率を解消できる分野がまた多く残っています。マッチング理論はまさに世の中の非効率な制度や仕組みを改善するにあたって、我々にとって有効なツールになると実感した読書会でした。