未来の金融をデザインする

主に経済や金融に関する記事や開催した読書会や勉強会の報告を書いております。

【開催報告】2016年10月23日(日)金融経済読書会「なぜ今、私たちは未来をこれほど不安に感じるのか?」

今回の金融経済読書会では「なぜ今、私たちは未来をこれほど不安に感じるのか?」を課題図書とするとともに、著者である松村さんをお招きしました。

 本のタイトルにあるように、現在多くの人が未来に対して漠然と不安を感じているという状況に対して、その不安の根源は何なのか、そして進撃の巨人アイアムアヒーローといったよくわからない巨大な動きに対して人々が直面するという漫画が流行っている現実の社会において、今後世の中はどうなっていくのか等といったことを考えるきっかけにしたいと思い、今回は本書を課題図書とした読書会を開催することにしました。

今回の読書会では、①最初に著者の松村さんにご講演していただき、②その後、参加者がグループに分かれて、本書において議論したい論点を出してもらうとともに、③それらの論点に対して松村さんからコメントを頂戴するといった構成になりました。 

①の松村さんのご講演では、本書を書くきっかけとなった問題意識、なぜ今回のような小説形式にしたのか、またなぜ漫画や音楽、アートといった題材を多く本に取り入れたのか等、本書が完成するまでの裏話を多く聞くことができました。「ここだけの話」というのが結構ありましたので、ここでは詳しくは書けないのは残念ですが、松村さんは元外資系金融機関のトレーダーということもあり、国債金利スワップLibordiscount rate、銀行と国家の関係、社会保障の問題等マーケットの現場にいらっしゃった実務家ならでは視点で、わかりやすい解説をしてくださいました。 
 
②のグループディスカッションでは以下のような意見が出ました。
  • 今後の引き続き経済は成長できるのか、もしくは経済の成長を前提とすべきではないのか。
  • 成長の限界という論点について、AIが成長を促すきっかけになるのではないか。
  • モヤモヤとした不安の背景には、社会、政治、メディアに対する不信感が募っているというのがあるのではないか。今後はSharing Economyといった新たな経済の形において、いかに人々や物事が信用を獲得することが重要になってくる。すなわち、信用創造がキーワードになってくるのではないか(ここでいう信用創造とは、中央銀行が金融政策及び市中銀行の貸出を通じて、マネーストックを増やすといった意味での信用創造とは異なります。)。
  • (若者の参加者の意見として)生まれてからずっと低成長だったので、今のような低成長時代が当たり前に感じており、特段不安は感じない。
  • -成長の限界ということに対して、総論では賛成だが、既得権益者が各論反対ということになっているのだろう。莫大な財政赤字に対して、ハードランディングをするしかないのではないか。
  • ポスト資本主義に至るプロセスがどうなるかが重要ではないか。いわゆる定常経済という状況について、地方経済はすでに定常経済になっている可能性がある。そして、そのような地方経済にはマイルドヤンキーといった地域密着の動きも出てきている。財政赤字については、ハードランディングをするのではなく、年金だけ一部デフォルトにするなどのソフトランディングも考えられるのではないか。 
 
課題図書の感想とも言える上記②に対して、③で著者の松村さんからは一つ一つ丁寧にコメントを頂戴しました。元外資系金融でのトレーダーというバックボーンもあり、コメントにおいて、過去の経済情勢の経緯、リーマンショック時に一度リセットするということも考えられた等の示唆に富むコメントをいただきました。 
 
本書の主張及び今回のディスカッションを誤解を恐れずに乱暴にまとめてしまうと、「世の中は、財政政策、金融政策、テクノロジー等でなんとか経済を成長させようとしているが、成長には限界があることがみんなうすうす気が付いている。そして、財政政策、金融政策、社会保障問題の結果として、日本を筆頭に莫大な財政赤字を世界中の国々は抱えてしまっている。社会保障については、将来実際に支払う必要があることが確定しているものの、それらの支払いは高い経済成長と高い運用利回りを前提としている。しかしながら、経済成長は定常状態に到達するとともに、将来の社会保障費を支払うような高い運用利回りは達成できていない。となると、今後はいつか社会保障費の支払いに限界に来るが、政治的文脈において、このようなことは政治家はいうことはできない。社会保障が将来手当てされなくなると将来に不安を感じてしまう。将来へ不安が消費や投資を萎縮させて、経済は益々縮小してしまう。さらに日本では事実として、人口減少が進んでいる。人口が減少すると一人あたりGDPは減ってしまう。これらの矛盾をどこかで解消する必要があるが、その手当ては必ずどこかで痛みを伴う。一方で、その痛みを受ける覚悟を政治家はもちろん国民もできてない。本質的には経済が持続的に成長さえすればこれらの矛盾はすべて解消されるが、それが実は無理なんじゃないかと気付き始めていることが不安の正体の一つではないか」ということになると思います。  
 
こういった整理をしていると、なんだかとても暗い感じがしてきますが、ノストラダムスの大預言のような不可避な不安ではなく、上記は我々が生きている社会におけるリアルな課題であるので、目を背けずにきちんと向かいあうとともに、自分は何が出来るのかを考えることが課題解決の第一歩かと思います。 
 
FEDとしてもこういった経済や金融に関する多くの課題を考えるきっかけとなる場を今後も提供して行きたいと考えております。 
 
なお、最後になりましまが、著者の松村さんからは「今回は核心についてお話しすることができなかった。また機会があれば特別編としてお話ししたい。」とコメントを頂戴しております。今回参加された方も出来なかった方もご興味があれば、いいね!やコメントを頂戴できますと幸いです。 
 
 

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