マンキューの経済学10大原理とは何か
前回は経済政策に関する6つの論争について記載しましたが、本日はマンキュー経済学で説明されている経済学10大原理についてご紹介いたします。
経済学の入門書としては、マンキューが書いたもの以外にも、古いところで言えば、サミュエルソンから始まり、ノーベル経済学賞の受賞者であるスティグリッツやクルーグマンらが書いた本もあります(サミュエルソンも当然にというか、第2回のノーベル経済学の受賞者です。)。加えて、日本語でも伊藤元重先生、中谷巌先生、ゼミナール経済学等、すぐれた入門書が多数あります。
ちなみに昔マンキュー経済学の読書会をやっていた時は、スティグリッツ、クルーグマン、ヴァリアンのミクロ、武隈ミクロ、西村ミクロ、八田ミクロの読み比べとかもしていました。当時の読み比べの内容は以下のブログに記載しています。
このようなレッドオーシャンともいえる経済学の入門レベルの本市場ですが、マンキューが教科書として注目されている理由の一つは、経済学10大原理が解説されているためです。
マンキューの本では、この経済学10大原理が一番最初に説明されていて、章が進むごとに、10大原理のいくつかが引用されて具体例が示されていることから、この10大原理が自然に身につくものとなっています。その10大原理は以下の通りです。
①人々はどのように意思決定するか
1人々はトレードオフ (相反する関係) に直面している
2あるものの費用は、それを得るために放棄したものの価値である
3合理的な人々は限界的な部分で考える
4人々はインセンティブに反応する②人々はどのように影響しあうのか
5交易 (取引) はすべての人々をより豊かにする
6通常、市場は経済活動を組織する良策である
7政府は市場のもたらす成果を改善できることもある③経済は全体としてどのように動いているか
8一国の生活水準は、生産性によってほぼ決定される
9政府が紙幣を印刷しすぎると、物価が上昇する
10インフレ率と失業率の間には短期的なトレードオフが存在する
「①人々はどのように意思決定するか」は経済学で想定されている個人の合理的な意思決定の基礎となるものです。「②人々はどのように影響しあうのか」は、①で想定されている合理的な個人が複数いる場合、どのような取引及び行動が行われるかを説明しています。そして、③は国全体のようなマクロ的な視点からの分析を説明しています。
経済学のフレームワークに落とし込むと、①と②はミクロ経済学で、③はマクロ経済学の分野に当たります。上記の10大原理について、1〜7に関して、異論を挟む人はほぼいないものと思われます。
他方、③のマクロ経済学の分野に行くとやや怪しくなります。例えば「9 政府が紙幣を印刷しすぎると、物価が上昇する」とありますが、実際に日本を含め、多くの国で物価の情報をコントロールできていない状況です。
実際、マンキュー自身もニューヨークタイムズの記事で「最近の金融危機を受けて基本的な経済学の教えをちょっとした点で修正する必要がある」と述べています。具体的には以下の4点です。
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金融機関の役割
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レバレッジの影響
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金融政策の限界
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予測の難題
上記のように経済学10大原理といえど普遍的な原理ではありませんが、多くの場合、経済学及び経済を理解することに役立つことには間違いありません。実際、上記のニューヨークタイムズの記事でもマンキューは「近年の出来事を踏まえても、経済学の原則は概ね変わっていない」と述べています。
経済学を概要だけでも学びたいということは、マンキュー経済学の1章に書かれている「経済学10大原理」だけでもまずは読むことをお勧めします。
なお、ご参考までですが、マンキューの1章のスライドは以下にまとめています(約10年前に実施したマンキュー経済学勉強会の初回のスライドです)。