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第2回人事と組織の経済学勉強会_開催報告_2018年4月28日(土)

4月28日(土)に開催した第2回人事と組織の経済学勉強会の当日のディスカッションについて記載します。議論のテーマとなった「3章能力への投資」と「4章離職の管理」については、以下のリンクをご確認願います。

fedjapan.hatenablog.jp

当日は3章の内容が非常に盛り上がりすぎたため、離職についての議論はあまり行われず、主に教育に関する話が中心でした。以下では、当日の議論について箇条書きでまとめております。


一般的人的資本と企業特殊的資本

  • 一般的人的資本と企業特殊的人的資本について、個人はなるべく一般的人的資本を高めることで、他社でも通用する能力を高めたいと思っている一方で、企業は企業特殊的人的資本の教育を個人に施すことで、個人を長く企業に留まらせるようにロックインしようとしている。
  • 個人からしたら企業特殊的人的資本を身につけるよりも、一般的人的資本を身に付けたいと思うかもしれないが、企業の本質的な競争力は企業特殊的人的資本にあるはずだ。なぜならば一般的人的資本だけでは差別化できないため。よって、企業特殊的人的資本を見つけることが個人にとっても重要になるのではないか。
  • コンサルの場合、新卒の研修では一般的人的資本を高めるような研修ばかりを受けるし、実際コンサル業界では業界内での転職が多い。
  • 企業が外部にアウトソースするような研修はすべて一般的人的資本に該当することになる。企業が研修をアウトソースばかりするので、他社と差別化できず、競争力を保てなくなってきているのではないか。


競争力のある企業特殊的資本とは結局のところ何のか

  • 企業の競争力は企業特殊的人的資本だけで決まるものではない。業界内でのポジションニング、ビジネスモデル、企業戦略、そして組織のあり方にもよる。個人は一般的人的資本しか有してないとしても、企業が優れたビジネスモデルを持っているならば、企業としては競争力を持つことは可能。そうなると競争力に結びつく、企業特殊的人的資本とは具体的に何のことになるのか(ただし、経費精算や事務連絡の方法等の企業の本質的な競争力に結びつかない企業特殊的人的資本は除く)。
  • 野中郁次郎先生は、SECIモデルを用いて、暗黙知形式知かすることの重要性を説いた*1。競争力の現存となる企業特殊的人的資本は、このようにまだ言語化できていないものではないか。だからこそ、具体的に何なのかがイメージが湧いてこないものと思う。

  • 例えば、プロサッカー選手でいう場合、選手のフィジカルな強さは一般的人的資本と言えるだろう。有名なサッカー選手はクラブチームを渡り歩くが、その際の企業特殊的人的資本(クラブ特殊的人的資本)は一体何であろうか。
  • →それはチームカラーになるのではないか。例えば、守りが強い等。
  • →となるとアナロジーで考えると、企業の競争力の源泉はクレドや企業風土といった抽象的なものになってしまうのか。 


高度人材をいかに使うか

  • MBA、博士号取得者、弁護士、データサイエンティスト等の高度人材をいかに有効に使うか」について、そもそも高度人材を使うことが戦略に織り込まれて初めて、高度人材を使う意味が出てくる。高度人材を使うことありきで議論をするとミスリードになるのではないか。
  • 「組織は戦略に従う」と「戦略は組織に従う」という両方のことが経営学者によって指摘されている。高度人材の活用については、まさに「組織は戦略に従う」ことになろうかと思うが、多くの場合、戦略はすぐに変更できる一方で、組織は簡単には変更が出来なかったりする。そのため、例えば「AIを活用する戦略を行う。そのため、データサイエンティストを大量に採用する」といった戦略をとったとしても、既存の組織体制では、多くのデータサイエンティストを有効に扱えないケースが出てくる。この状況はまさに「戦略は組織に従う」ことに陥っている。このような状況を解消するために、企業は職能別組織から事業部制への改編等の組織変更を行ったりする。しかしながら、組織変更には時間がかかるので、その間は高度人材を有効に活用できない時期が続くかもしれない。そうこうしているうちに、環境が変わったり、経営者が変わり、戦略が再び変更されたりすることで、またも組織改編が行われ、現場が混乱する。このようなことが頻繁に起こっているのではないだろうか。 


離職について

  • 環境の変化が激しい現代において、戦略を変更するとともに、柔軟に組織を変更することが重要となる。その場合は、いかに離職を促すかといったことも重要になるだろう。そう言った意味では、4章から学ぶことは多い。
  • 環境変化が激しい中、企業が競争力を保てるのは選択と集中を行っているからで、他のことにリソースに割いている余裕はないのではないか。
  • 選択と集中に特化しすぎると、環境の変化に素早く対応できなくなるというリスクがある。そのため、企業は多角化戦略を進める中で、新たなビジネスの種を探すことになる。選択と集中を基にした競争力を活かした多角化が新たなイノベーションの源泉となりうる。一方で、多角化がうまくいけば良いが、失敗した場合には、多角化戦略を見直す必要が出てくる。すなわち、再度選択と集中を行うというものである。結局、企業は選択と集中多角化を行ったり来たりすることになる。そのような場合、いかに離職や解雇の戦略を行うかは非常に重要になってくるし、まさに今の日本企業が苦手な点とも言える。


以上となります。後半は組織についても議論が盛り上がりましたが、次回からの輪読は第2部「組織と職務の設計」がテーマとなっております。最近ではティール組織*2といった新たな組織のあり方も議論されていますし、ホットイシューとなっています。次回以降で、組織の理論的な仕組みについて学んでいく予定です。

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*1:

知識創造企業

知識創造企業

 

*2:

ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現

ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現