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主に経済や金融に関する記事や開催した読書会や勉強会の報告を書いております。

「不安な個人、立ちすくむ国家」読書会_開催報告_3月18日(日)金融経済読書会light

3月18日(日)9時から「不安な個人、立ちすくむ国家」(以下、「本書」)を課題図書とした金融経済読書会lightを開催いたしました。 

不安な個人、立ちすくむ国家

不安な個人、立ちすくむ国家

 

本書は、2017年5月に発表された通称経産省若手レポート(以下、「本レポート」)が書籍化されたものです。

当日は本レポートの執筆者の一人であり、本書でインタビューをされている経済産業省の宇野さんもお招きして、総勢30名近くで本書についてディスカッションを行いました。以下では、本書の概要及び当日のディスカッション内容について、記載いたします。

本書は、本レポートが丸ごと掲載されていることに加え、経産省の若手による養老孟司氏、冨山和彦氏、そして東浩紀氏の各氏との座談会の内容と、本レポートに携わった経産省の複数の若手へのインタビューで構成されています。

本レポート自体は上記URLから無料で手に入れられますが、本書では、本レポートのその後の反響やツイッター上でのコメントや感想、また上記座談会の各氏が本レポートをどのように受け止めたかを知ることができるので、本レポートを読んだ人にとっても読む価値があるものと考えます。なお、本レポートが本で出版された理由の一つとしては、本レポートを読んだ層が比較的若い層で、高齢者には必ずしも多く読まれていない可能性もあり、より多くの高齢者層に読んでもらうためと聞いています。
個人的は本書を読んで、経産省の若手がどう言ったモチベーションで本レポートに取り組んだのかや、どのようにしてパブリックマインドを醸成して行ったのかが興味深かったです。また、座談会では、冨山さんの年功制廃止をはじめ歯に絹着させない物言いが読んでいて気持ちよかったです。 

次に当日のディスカッション内容についてです。当日はまずは参加者同士で本書に対する感想を共有してもらい、その後、宇野さんにプレゼンテーションをしていただきました。添付の写真のように当日は多くの論点が出てきましたが、要点をまとめると以下のようになります。

  1. 本レポートに書かれているような100年人生の時代において、日本的経営と言われる年功序列、終身雇用を維持するには限界がきている。メンバーシップ型からジョブ型へ移行することで、労働市場のさらなる流動化が重要になってくるのではないか。また、そもそも正社員制度自体をなくしてしまえば、既得権益がなくなるのではないか(非正規雇用者からすれば正社員制度自体が既得権益になっている)。
  2. 社会保証制度について、国が情報の出し方が上手でないと同時に、国民もパブリックサービスに対する情報の取り方がそれほど上手ではない。もっと国民が主体的に情報を取りに行くことが重要。また、(本レポートに記載されているような高齢者が若者を支える社会においては、)公共サービスに対する受益者教育が今後ますます必要になってくる。
  3. モデル無き時代においては、教育のあり方も必然的に変わってくる。これまでみたいに学校に行くと言った教育に加え、働き方のための教育が重要になってくる。また、格差社会において、金銭的な理由で学ぶことができない人たちをどう言った形でサポートするかも重要になってくるのではないか。
  4. 日本は個人が国や企業に依存する依存型社会になっている。一方で、このような依存型社会は、少子高齢化や低成長の現在においては維持が限界にきている。先行きが不透明なのは当たり前であり、個々人の適応力が重要になってくる。また、依存が当たり前といった個人の意識も変える必要が出てくるだろう。


上記のようなディスカッションや参加者からのQ&Aに対して宇野さんにはご丁寧にご感想やご回答を頂戴しました。ありがとうございました。

また、参加者の質問で多かったものとしては、「本レポートの発刊後、具体的にはどう言った形で政策に落とし込まれているのか」といったことがあげられます。本レポートの関連分野では、100年人生という文脈では「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」が、また教育分野では「『未来の教室』とEdTech研究会」といった研究会が立ち上げられました。本書や本レポートに興味を持たれた方はこれらの研究会の動向にも注目いただければと思います。

関連で、FEDでは過去に「なぜ今、私たちは未来をこれほど不安に感じるのか?」という本の読書会を開催しましたが、モデル無き社会における不安の源泉のヒントとしては当該読書会も参考になるかと思います。

今後100年人生においては、働き方や労働市場の変化がキーワードの一つとなります。FEDでは、「人事と組織の経済学」の読書会を輪読形式で開催しております。次回となる第2回は、2018年4月28日(土)18時からを予定しています。ご興味がございましたら、こちらにもご参加いただけますと幸いです。

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