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「日銀と政治」読書会_開催報告_2018年2月4日(日)金融経済読書会

2月4日(日)に「日銀と政治 暗闘の20年史」の著者である鯨岡さんをお招きし、当該本の読書会を開催しました。

日銀と政治 暗闘の20年史

日銀と政治 暗闘の20年史

 

 当日は、最初に鯨岡さんにプレゼンをしていただき、後半ではチームに分かれて、本書に対する質問や日銀の金融政策に関する幅広い質問を受け付け、鯨岡さんとともに日銀と政治のあり方についてディスカッションを行いました。以下では、本書の概要および当日のディスカッション内容について振り返ります。

①本書の概要
本書は朝日新聞政治記者として首相官邸民主党、そして日銀等をご担当された鯨岡さんが書かれた日銀の政策決定に関する本です。いうまでもなく、日銀は日本の金融政策を行う主体であり、金融政策は、日本銀行政策委員会による金融政策決定会合により決定されます。

教科書的には金融政策は日銀の独立性により、政府の影響からから独立して決定されます。仮に政府が日銀を完全にコントロールできると、国債の日銀引受を通じて財政規律が弱まりハイパーインフレが起こる可能性が出て来るためです。そのため、金融政策が決定されるにあたり、日銀の独立性は非常に重要になりますが、この独立性が担保されたのは約20年程前の1997年です。

本書は1997年の日銀の独立性の際にどういった背景で政治的に日銀の独立性が決められ、その後、どのようにして日銀の総裁や副総裁をはじめとする日本銀行政策委員会が決められてきたのかを政治の視点から書かれています。

これまで、日銀や他国の中央銀行の金融政策に関する本はたくさん発売されて来ましたが*1、政治的な切り口から金融政策を詳細に書かれた本は私が知る限りおそらく初めての本となります。まさに政治記者であり首相官邸や日銀を担当されてきた鯨岡さんだからかける本と言えます。

あとがきにも書かれているように、本書の目的は、特定の政策の是非を問うものではなく、政策が誰の手により提唱され、どのような力学で決められ、実行されたいったのかを記録することにあります。

日銀の総裁の一言でマーケットは動きますが、そのような背景には政治的な思惑があることも多々あります。そういったことが体系的にまとめられている本は今まであまりありませんでした。

1997年に日銀の独立性が認められてから総裁になった人は、速水優福井俊彦白川方明、そして黒田東彦の4名です。この約20年の間には、アジア通貨危機があり、ITバブルが崩壊し、サブプライムショック及びリーマンショックが起こり、ユーロ危機があり、東日本大震災がありました。その間、日銀の金融政策もゼロ金利政策をはじめ、量的緩和、信用緩和、異次元緩和、マイナス金利政策、イールドカーブコントロール等が導入されました。これらの政策は必ずしも経済学的な裏付けがあるものばかりではなく、実験的なもの、政治的な意図もあって採用されたものもあります。本書を通じて、この激動の20年間でどのようにして金融政策が金融政策決定会合の舞台裏で議論され、そして決まっていたのかを知れるとともに、今後の日銀の金融政策を占うにあたり、どういった政治的な流れを読み解けば良いのかのヒントを得ることができます。

なお、本書は400ページを超えるそれなりの分量となっていますが、プロの記者が書かれているだけあって、非常に読みやすいです。また、普段政治や経済についてそれほど詳しくない人も本書を読めば、どういった政治家がどういった主張をしてきたのかを合わせて学ぶことができます(アベノミクスを知らない人はほぼいないと思いますが、民主党政権時代に菅首相ケインジアン的な政策を文字って「カンジアン」と言われていたことを覚えている人は非常に少数でしょう。私も完全に忘却の彼方でした。)。

②当日の議論
読書会ではまずは鯨岡さんに本書の概要を改めてご説明していただくともに、本書を書くに至った問題意識を共有していただきました。

これまでFEDでは金融政策やアベノミクスに関する勉強会をおそらく10回以上開催してきましたが、多くの回で鯨岡さんにもご参加いただき、その際の話もしていただきました(本書のp362に黒田総裁のピーターパンを例えた話が出てきますが、このことはFEDでマイナス金利政策の勉強会をした当時にも鯨岡さんがご紹介してくださっていました)。

後半では鯨岡さんのご著書と鯨岡さんのご講演を踏まえ、参加者でディスカッションしていただき、幅広に質問を集めました。以下では、その質問をいくつか紹介します。
日銀の総裁は今年の4月に変わる予定だが、自民党総裁の論点になるのか。

  • デフレから脱脚が出来ないのは日銀だけではなく、政府の責任もあるのではないか。
  • 物価はどうすれば上がるのか。
  • 日銀の出口戦略はどう考えられているのか。
  • 黒田総裁の評価はどうだったのか。
  • FRBやECBの今後の利上げはどうなるのか等

上記につき、色々な視点から参加者も交えて議論を行いました。当日の議論を終えた後でいくつか新しいニュースも出てきたので、そのことも合わせて以下で要点をまとめます。

第一に日銀の次期総裁についてです。日銀の総裁については黒田総裁の続投が濃厚だということが2月5日の週に報道されました。また、副総裁の岩田規久男氏は外れる可能性もかなり高そうです。こういった背景から、日銀によるリフレ政策は多少の転換が図られると予想されます。また黒田総裁は財務省出身で、元財務官であることから、財政規律を重視するような立場をとることが想像されます。

第二に利上げについてです。2月2日に発表されたアメリカの雇用統計が予想よりも良く、賃金の上昇を見られたことから、米国債長期金利が上昇しました。その結果、ダウは大きく下げ、また日経平均も大きく下落しました。失業率が低く、賃金が上がったということは、経済学的には完全雇用になっていると考えられ、さらなる金融緩和はインフレ圧力をもたらします。そのことを市場は予想し、長期金利は上昇し、金利が上がったことから、(金利の上昇は設備投資等を抑制するという観点から)株価は下落しました。

金融緩和のやりすぎはバブルの温床となることから、FRBは利上げをしていくことが予想されます。一方で、日銀はどうでしょうか。「日銀と政治」を読む限り、ゼロ金利量的緩和の解除は金融政策の意思決定としては事後的に失敗と捉えられています。こういった経緯の中、日銀は難しい金融政策の舵取りを担うこととなります。

最後に、時期の自民党総裁、すなわち首相が誰になるかも日銀の金融政策に影響を与えそうです。前FRBの議長のイエレンは4年の任期を終え、交代となりました。このような背景として、イエレンは民主党政権時代に選ばれたFRB議長でしたが、去年共和党のトランプ政権になったという理由から、議長を共和党が主体的に決めるためにパウエルが選ばれたという議論があります(実際にトランプがそういった趣旨を発言しています)。
自民党の総裁は、日銀の総裁が選ばれた後に決まることになりますが、新たな首相による経済政策は、日銀の金融政策のあり方に大きな影響を与えることは「日銀と政治」を読まれた方は当然に感じることでしょう。

繰り返しになりますが、2018年には日銀の総裁が5年ぶりに変わる可能性があり、また新たな首相が選ばれることとなる自民党の総裁選もあります。そう考えると、このタイミングで鯨岡さんをお招きし、日銀と政治の読書会を開催出来たのは、今後の日本の政治と金融政策を予想する上で非常に有意義だったと感じています。

最後になりますが、本読書会にご参加いただたい鯨岡さんと参加された皆様に改めて感謝いたします。

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*1:例えば、岩田一政が書かれたデフレとの戦い等 

デフレとの闘い

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