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主に経済や金融に関する記事や開催した読書会や勉強会の報告を書いております。

第1回クルーグマン国際経済学勉強会_開催報告_2017年4月2日(日)

4月2日に第1回クルーグマン国際経済学勉強会を開催いたしました。クルーグマン国際経済学に関する勉強会は2013年1月にも開催して10回ぐらい続けたのですが、途中から他の勉強会との兼ね合いで開催が3年程できておりませんでした。一方で、去年のBrexitトランプ大統領誕生において貿易問題がイシューになったり(保護貿易はどこまで正当化されるのか、保護貿易を通じて本当にアメリカは利益を得るのか)、また、クルーグマン国際経済学の原著である「International Economics Theory and Policy」10版が新たに発売されるとともに、日本語版も発売されたこと等もあり、この度もう一度最初から輪読を開催するに至りました。  

クルーグマン国際経済学 理論と政策 〔原書第10版〕上:貿易編

クルーグマン国際経済学 理論と政策 〔原書第10版〕上:貿易編

 
今回の輪読では1章の「はじめに」と2章の「世界貿易の外観」の箇所を学びました。1章では、国際経済学の7つのテーマである「1貿易の利益」「2貿易のパターン」「3どのぐらい貿易するのがいいのか」「4国際収支」「5為替レートの決定要因」「 6国際政策協調」「7国際資本市場」について確認をするとともに、今後国際経済学でどういった点に興味があるかを参加者に聞きました。参加者の方からは「自由貿易と所得配分に関する関係」、「国際貿易政策はすでに確立している一方、国際マクロ経済政策はまだ最近のトピックであることから興味がある」、「ビットコイン等が国際貿易や国際収支にどういった影響があるのか」(事務局を含め一部の方から)「貿易のモデルにも興味がある」といったコメントがございました。今後本書の輪読を行う中で、国際経済学が対象とする諸問題に関する大海原を駆け巡ることになりますが、上記7つのテーマを押さえておけば磁石のような役割を果たしてくれて、今どういったことを学んでいるのかを見失わなくてすむかと思います。
 
2章の「世界貿易の外観」では、世界貿易の金額の推移、2国間の貿易の金額は貿易相手の経済規模と自国と貿易国との距離によって決まってくるという「重力理論」、そしてサービスのアウトソーシング化(オフショア化)について学びました。そんな中、日本語訳のP25に書かれている「貿易をめぐる政治的な争いは通常、輸入によって技能が下がった労働者達-輸入医療で競争に直面する衣服業界労働者や、バンガロールからの競争に直面する技術労働者など-をめぐるものとなった。」という点は、イギリスによるEU離脱やトランプ米大統領による保護貿易主義の考えといったものとも関係していると言えます。そう言った意味でも、貿易理論を学ぶことは、決して机上の理論を学ぶことではなく、今起こっている貿易や国際金融に関する事象をどう解釈し、そして今後どういったことが起こりうるのかを考えるのに役にたつと考えております。
 
今回の勉強会では、これまででおそらく初めての取り組みとなる「練習問題」を解くことにチャレンジをしました。アメリカの教科書に載っている練習問題には基本的には解答は書かれていません。有名な教科書には「Solution Manual」といった形で大学院生が解答例を示したものもあり、クルーグマン国際経済学の原著である「International Economics Theory and Policy」にも「Solution Manual」は存在しますが、これは公式な解答ではなく、あくまで参考程度なもので、間違っていることも多々あるようです。
このような答えの書かれていない「練習問題」に挑戦した理由としては、①教科書で学んだことをきちんと使えるようにするため、②答えに至るまでのプロセスをディスカッションを通じて共有するため、③経済事象には多くの場合唯一絶対の答えはなく、様々な視点から議論をすることが求められるため、といったことが挙げられます。なお、次回以降は事前に勉強会で議論するいくつか問題を提示させていただきますので、ご参加される方は、予習の段階で事前に問題に目を通していただければと思います(計算問題は解かずに、議論するような問題を基本的には取り上げます)。
 
ちなみに今回取り組んだ問題はP26の3と5です。どういった議論が行われたかは写真のホワイトボードの内容をご確認頂ければと思います。
 
次回は5月の開催を予定しております。テーマは「労働生産性と比較優位」です。国際貿易の基本であり、今でも重要な原則的な考え方の一つです。奮ってのご参加をお待ちしております。

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参考資料等

今回使用したプレゼンテーション資料

www.slideshare.net


2013年1月時の勉強会で使用した資料

www.slideshare.net

アランブラインダーによって2006年にForeign Affairsに投稿された「Offshore」の記事の原型となる論文です。https://www.princeton.edu/~blinder/papers/05offshoringWP.pdf

参考文献に載っている重力モデルに関する便利なガイドです。 Keith Head(2003)”Gravity for Beginners∗” http://www.forschungsseminar.de/ipw/gravity.pdf