未来の金融をデザインする

主に経済や金融に関する記事や開催した読書会や勉強会の報告を書いております。

横山和輝先生著「マーケット進化論」読書会_開催報告_2016年6月25日(土)金融経済読書会

マーケット3部作と名打って行ってきましたマーケット読書会。第1回目は「市場を創る」を、第2回目では「Who gets what」を、そして、最後となる今回は名古屋市立大学准教授の横山先生が書かれた「マーケット進化論」を取り上げ、読書会を開催いたしました。また、今回は特別講師として、著者の横山先生にも読書会にご参加していただきました。

マーケット進化論 経済が解き明かす日本の歴史

マーケット進化論 経済が解き明かす日本の歴史

本書の内容を一言で要約すると、P3に書かれているように「鎌倉・室町時代から昭和初期まで、市場の機能を生かす市場設計を通じて、日本は経済発展を実現した。」となります。「市場を創る」では主にコモディティ市場をいかに設計するかを、そして、「 Who gets what」では価格メカニズムが有効に機能しない状況において、マッチングメカニズムをいかに設計するかが焦点に当てられていました。一方、本書では、過去日本において、いかに市場の機能を活かす市場設計が為されてきたかが焦点となっています、具体的には神仏、安心、産地、交通、教育と言った身近なテーマにおいて、日本はどのようにして市場を活用してきかを歴史に沿って解説されています。

当日の読書会では、著者の横山先生に本書についてのプレゼンテーションをしていただきました。横山先生が経済史を学ぶきっかけから始まり、横山先生が娘さんの幼稚園の授業参観に出たことで本書を執筆するきっかけを得たことや、先生のご専門でもある金融史及び金融システムの話、そして古文を実際に引用しながら、江戸時代ではどのような流通ビジネスが行われていたのか等、どれも興味深いお話ばかりでした。個人的にとても印象的だったのが、江戸時代にはFEDのような自主的な勉強会が神社やお寺等で開催され、皆お酒を飲みながら色々と議論をしていたというお話です。

また、神社には絵馬の裏側に誰かが数学の問題を書き、他の人がその数学の問題を解くと言ったやり取りもあったようです。そして、その絵馬に描かれた数学の問題のレベルが非常に高く、横山先生の同僚(理系)の方でも解くのに苦労したとのことでした。このあたりのお話は、映画化もされた冲方丁の小説『天地明察』にも描かれています。

天地明察 [DVD]

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その他にも金融教育のお話も興味深かったです。室町時代から証文の書き換え等を通じて、複利計算の考え方が浸透しており、教育の現場でも複利計算が教えられていたそうです。このような複利計算を始めとする金融教育が戦前までは行われていたものの、戦後においては金融教育は鳴りを潜め、代わって重視されたのがものづくり的な発想の教育です。そして、戦前に金融教育を受けていた人達が経営者となり日本の戦後高度経済成長期を支えた一方、ものづくり教育を中心に受けてきた人達がバブル崩壊前後の日本の企業を支えてきたのではないかというお話も非常に興味深く聞きました。

当日のディスカッションにおきましては、日本の歴史教育や、教育、イノベーション、労働のあり方等多岐にわたって議論が行われました。私個人としては学生時代は歴史は暗記科目と考えており、正直それ程面白く感じた記憶がなかったのですが、大人になって経済学を学んだ上で、改めて歴史を学ぶと理解が深まるとともにとても面白く感じています。この感想を参加者にぶつけたところ、「教科書では、経済的な側面ではなく、政治的な側面を重視して説明されている。そのため、経済の流れを理解しづらく、どうしても暗記重視になりがちになってしまうのではないか」との意見があり、個人的にはとても腑に落ちました。

今回の横山先生のプレゼンテーションにおいては、「国家はなぜ衰退するのか」の著者であるダロン・アセモグル やノーベル経済学者のダグラス・ノース、そして「ヤバイ経済学」のスティーヴン・レヴィット、「学力の経済学」の中室先生等の引用がございました。振り返ってみると、FEDの前身とも言えるマンキュー経済学勉強会は、ハーバード大教授のマンキューが書いた「Principles of Economics」を3年かけて読破するという目標から始まり、実際に2009年終わりから開始した読書会は、2012年の年末に終えることができました。マンキュー経済学勉強会では、いわゆるオーソドックスなミクロ経済学マクロ経済学を学びましたが、FEDではマンキュー経済学勉強会を基礎として、幅広く、経済、金融に関する勉強会、読書会を開催してきました。事実、過去の読書会では、横山先生が引用されていたアセモグルやノース、レヴィット、中室先生の本も扱いました。そして、マンキュー経済学ではそれ程深堀されていない市場の制度設計についても、直近過去3回の読書会を通じて、理解を深めてきました。

FEDの読書会では、必ずしも経済学を最短距離で学ぶような設計がなされていませんが、多くの寄り道を経ることで、結果として多くの学びを得ることが出来ると考えています。実際、「マーケット進化論」を読んだり、横山先生のプレゼンテーションを聞く中で、過去FEDで取り上げてき多くの経済、金融の本を思い出しましたし、逆説的ではありますが、こう言った多くの寄り道を経たからこそ、「マーケット進化論」にとだりつくことができたとも感じています。まさにスティーブ・ジョブズが我々に教えてくれた「connecting dots」の重要性を実感しました。FEDでも引き続き学びの場を皆様と一緒に作っていくことで、進化していきたいと考えております。最後になりましたが、今回素晴らしい場を作ってくださった横山先生にはこの場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。FEDでの学びを深化させることで、間接的にではありますが、経済学にも貢献できるようFEDの活動を今後も尽力していきたいと思います。