「知識創造企業」_金融経済読書会Classic_開催報告_2016年3月19日
- 作者: 野中郁次郎,竹内弘高,梅本勝博
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 1996/03/01
- メディア: 単行本
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一方で、知識創造企業としての新しい組織構造として「ハイパーテキスト型組織」があげられており、ハイパーテキスト型組織への移行途中の企業の例として花王が、そして完全にハイパーテキスト型組織へ移行している組織の例としてシャープが取り上げられていますが、現在のシャープの状況を鑑みるに、20年前のように本書で指摘されてる知識創造企業の完成系の組織として今もハイパフォーマンスを発揮しているとは残念ながら言えないものと思われます。
このように今でも十分通用することが書かれている一方で、事例を後追いしていくと、必ずしもその後の企業が引き続き知識創造企業になっていないというのが興味深いところといえます(ビジョナリーカンパニーで取り上げられている会社にも同様のことが言えると思いますが…。)。
1.なぜ日本企業はうまくいかなくなったのか。
2.知識創造企業の例は製造業のみだが、製造業以外の業種にもSECIモデルは適用可能なのか。
1.では以下のような意見等がありました。
- 組織の硬直化が原因ではないか。日本の企業は人材の流動性が低いことがあげられる。
- 危機感の共有が出来ていないことも大きい。また、失敗が許されない文化があり、そのため、SECIモデルがうまく機能しなくなっているのではないか。
- 同一の人が集まりやすく、社内に多様性がない。
- 人材が流動化していくことが重要。ダイナミズムを動かしていく多様な人材のプールが必要。また社外のつながりもこれまで以上に求められるようになっている。
- 環境の変化が大きい。今の日本企業は外部環境の変化に対応しきれていない。シャープは本書ではマネをしない企業と書かれていたが、現在はマネをするようになった。
- 同じく野中先生が著者の一人となっている「失敗の本質」に書かれているように日本企業は戦艦主義に陥ってしまった。また、シャープは経産省の補助金をあてにしたビジネスになっていたのも大きいと思われる。
2.では以下のような意見がでました。
- そもそも今では日本企業の定義が難しい。何をもって日本企業というのか。株主比率で外人が多いソニーは日本企業といえるのか。また、知識創造企業として日本企業が例にあげられているが、製造業以外ではどういった企業が知識企業といえるのか。
- 商社は昔と比べて飲み会の回数は減っている。以前は、飲み会や社員寮を通じて、企業の文化的側面が強化されていたことがあったといえるが、今はかつてと比べてこの点は弱くなっているかもしれない。
- イノベーションの源泉としては、知の探索と知の深化の二つが重要。前者においては、who knows who(誰が誰を知っているのか)、who knows what(誰が何を知っているのか)を知ることが肝要になってくる。かつては企業文化がしっかりしており、上記の知の探索も効果的に行われていたが、最近では日本企業(日本企業の定義はあいまいだが…)では知の探索が行われなくなってきているのではないか。
- 日本の企業は意思決定に時間がかかりすぎている。通常は意思決定を早めるため、権限委譲を行う形として事業部制を用いられることがあるが、事業部制になってむしろ意思決定が遅くなっているケースも見られる。
当日は非常に盛り上がった議論となりましたが、その中でも共通の意見としてあったのは「日本はもはや知識創造企業ではないのではないか。では、なぜ知識創造企業でなくなったのか。」という点でした。日本の企業は環境の変化に対応が出来なくなったという意見もありましたが、本書のP5には「日本企業の連続的イノベーションの特徴は、この外部知識との連携なのである。外部から取り込まれた知識は、組織内部で広く共有され、知識ベースに蓄積されて、新しい技術や新製品を開発するのに利用される。」と書かれており、本書が定義する知識創造企業はむしろ外部環境の変化に強いと考えられるのが、解釈の難しいところです。
こちらに興味深いことが書かれているので、いかにて一部引用します。
しかし、いまはシャープに代表されるように、日本のメーカーの多くに当時の面影は見られない。この事実を背景にSECI理論の説明力を疑問視する意見も、筆者は聞いたことがある。
しかし、それは逆ではないだろうか。むしろ日本企業の多くが過去の成功体験からSECI理論の示唆を軽視し、一方でそれを今実現できているのが、欧米の有力グローバル企業ということではないか。例えば、社内で対話を促す「場作り」を重視する企業は、むしろ最近の欧米の有力な大企業によく見られる。(中略)
このように長きにわたり成功し続けているGEやトヨタを見ると、SECI理論の説明力は衰えるどころか、むしろ増しているとすら言えるかもしれない。
冒頭に書いたように、本書ではすでにラピッドプロトタイピングやプロトタイプの作成の重要性、またいかに個人の暗黙知を組織の形式知に転化させるのか、そして暗黙知を醸成するためにどのようにして企業文化を浸透させるのかといったことが指摘されています。去年ベストセラーとなった「How google works」等を読むと、上記は、まさに現在アメリカ西海岸のシリコンバレーの企業によって実践されているものだと思われます。
今後テクノロジーの進化や人工知能が発展していく中で、人間の強みはまさにSECIモデルが指摘しているような個人の暗黙知を組織的に形式知化するプロセスの循環となっていき、このプロセスを持っている企業が今後の知識社会では一層競争力を発揮するものだと考えます。
- 作者: ピーター M センゲ,Peter M. Senge,枝廣淳子,小田理一郎,中小路佳代子
- 出版社/メーカー: 英治出版
- 発売日: 2011/06/22
- メディア: 単行本
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学習する組織の日本語訳は2011年に発売されていますが、元の本は1990年に発売されているということもあり、古典として扱ってもよいかと思います。500ページを超える大著ですが、興味がある人はいいねもしくはコメントを頂戴できれば幸いです。
http://www.slideshare.net/fedjapan/20160319-59777359