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未来の金融をデザインする

主に経済や金融に関する記事や開催した読書会や勉強会の報告を書いております。

コーポレートベンチャーキャピタルから考える金融その2-事業会社が保有するベンチャーキャピタルからの投資と事業会社本体からの投資-

金融経済に関するエッセイ

SNSやネットのよいところの一つは、自分の考えや仮説についてネットにぶつけてみた時に、思わぬ反応があり、仮に自分の仮説が間違っていようが正しかったであろうとも、さらに自身の仮説を深化させることが出来ることだと思います。

CVCは企業が組成するベンチャーキャピタル
先日コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)について書きました。そして、ベンチャー企業への投資業を行っていた同僚に書いた内容について、「どう?」って聞いたところ、「実務でいうところのCVCってちょっとニュアンスが違うかな」との返答。同僚曰く、「CVCは企業が組成するファンドのイメージ。コーポレート『ベンチャーキャピタル』なんだから。他方、FacebookがWhats appを買収するのって、ベンチャー投資っていうか、ストラテッジクインベストメント(戦略的投資)でしょ。」とのこと。

なるほどです。他方、私はCVCを「企業がベンチャー企業に投資をする活動」として定義しておりました。しかし、ベンチャー投資の実務に携わっていた立場からすると、CVCとは例えば以下のようなベンチャーキャピタルをイメージするようです。

  • リクルートインキュベーションパートナーズ(20億円)
  • GREE Ventures(20億円)
  • Klab Ventures(30億円規模)
  • アイ・マーキュリーキャピタル(mixi)(50億円規模)
  • KDDI Open Innovation Fund (50億円規模)
  • ドコモ・イノベーションファンド(100億円規模)
  • YJキャピタル(10億円)
  • フジ・スタートアップ・ベンチャーズ(15億円規模)

上記は加え、例えば、海外の企業でもGoogleGoogle Venturesという子会社を抱えています。こちらのブログによれば、Google Venturesの特徴は以下の通りです。

  • 2009年にGoogleの経営企画部門から独立したCVC。
  • 設立から4年で、現在では$1.2billion(1200億円)を運用し、225社の投資先を抱えている。
  • 投資セクターは、コンシューマーインターネット、ソフトウェア、ハードウェア、クリーンテック、バイオ、ヘルスケア等。投資ラウンドはシードからレイトまで全てのステージが対象。
  • パートナーおよび従業員60名のほとんどがGoogle出身。一方で、投資の意思決定はGoogle本体から独立しており、ファンドのリターンもGoogle Venturesの従業員にシェアされる仕組み。」

Googleは元々本体でベンチャー投資を行っていましたが、その部門が独立したというのがGoogle Venturesです。上記の日系のCVCも基本的には親会社からの出向でほとんどの人が構成されていると予想されています。

このように、実務でCVCという時は、いわゆる「ベンチャーキャピタルファンド」をイメージするとのことです。以下ではこのような事業会社がもつベンチャーキャピタルを「CVC」とします。ただの"CVC"は前回と同様「事業会社がベンチャー企業に出資・投資すること」とします。

「CVC」はベンチャーキャピタルファンドのことですが、事業会社本体でベンチャー企業へ投資を行っていることももちろんあり、広義ではこれもやはりCVCとなります。サイバーエージェントは、本体でもベンチャー投資をしていますし、サイバーエージェントベンチャーズという子会社の「CVC」も持っています。概念として、前者はCVCではなく、後者の「CVC」のみをCVCとするのはそれはそれで違和感はあります。

企業がベンチャーキャピタルを通じて投資するメリットは何か
とはいえ、実務ではやはり「CVC」といえば、実務の文脈では事業会社が保有するベンチャーキャピタルをまずイメージすることになるでしょう。
では、なぜ事業会社は本体でも投資を出来るにも関わらず、「CVC」のようなベンチャーキャピタルをわざわざ組成するのでしょうか。以下、考察です。

1.意思決定を早くするために「CVC」の投資額は多くの場合、本業の売り上げからすればわずかなものです。例えば、「CVC」を抱えているドコモは年間4兆円の売り上げがあります。そんな大企業がベンチャー企業のマイナー出資(買収ではなく)数千万円を複数するのに、いちいち本部の決裁を毎回取っているとなると、ベンチャー業界の素早い動きにはとてもついて行けません。それならば、本体で行うよりも、CVCの活動は子会社やファンドに移管させ、ある程度の予算と決定権を委譲した方が素早い取り組みが出来ます。

2.他社からも資金調達をすることが可能。実務で使う「CVC」はファンドを組成するのが一般的なので、親会社以外からも出資を募ることはよくあります。ややテクニカルな議論になりますが、「ファンド」という概念を理解しなければ、事業会社が運用する「CVC」をきちんと理解することは出来ません。例えば、このリリースでは、「サイバーエージェントベンチャーズ、スタートアップベンチャーに特化した総額50億円のファンド 「CA Startups Internet Fund 2号投資事業有限責任組合」を組成」と書かれています。

先の例で出たサイバーエージェントベンチャーズ(CAV)は、サイバーエージェントの連結子会社であすが、CAVが直接ベンチャー投資をするわけではありません。上記のリリースのようにCAVが「〜投資事業有限責任組合」を組成し、様々な会社・投資家から資金を集め、その集めた資金をもってベンチャー企業に投資をするのです。

このファンドを通じた資金調達(いわゆるファンドレイズ)は、金融機関のベンチャーキャピタルももちろん行います(というかこちらが本家)。大和証券の連結子会社で、ベンチャー投資を行っている大和企業投資も同様にこのリンクにありますように、「〜投資事業有限責任組合」を組成し、様々な投資家から資金を調達し、ベンチャー企業への投資を行っています。

3.「CVC」はR&D的な位置づけ事業会社には本業があります。また、事業会社がベンチャー投資をするにあたっても、必ずしもすぐにシナジーが見込めるとは限らず、CVCはR&D的な要素もあります。なので、本体ではやらずに、子会社にベンチャーキャピタル(「CVC」)を作って、間接的に投資をすることとなります。また、他社からの出資を募って、ファンドを組成して投資をするので、外部の資金を用いることで、小額の元手でより多くの投資機会を得ることができます。例えば、CAVは資本金は3億6千万しかありませんが、50億円ものファンドを組成しています。もちろん、ファンドを運用することになると、他の投資家への説明責任が伴ったりもするので、本体で投資をするよりも、難しい側面も出てきます。

ベンチャー投資は通常数千万円ぐらいの投資を複数、場合によっては数十件行います。失敗したとしても、リスクは投資した金額以上に損失は出ることはありません。これは金融の専門用語でいうところの「コールオプションの買い」の状況です。我々の身近な生活の例でいうならば、「宝くじ」を買うようなものです。株式投資やFX投資で損をした場合は恐らく悔しい気持ちになるでしょう。他方、宝くじであたりが出なかったとしても、株式で損をしたような精神的なダメージはないと思います。それは宝くじは「コールオプションの買い」だからです。

コールオプションの買い」では、オプションの権利を買った瞬間にキャッシュアウトします。その権利購入価格分の損失は確定です。その後、仮に株のオプションの場合、株価が上がればアップサイドを享受できます。他方、株価がどれだけ下がったとしても、最初に購入したオプション金額以上の損失はでません(オプションを行使しない状況)。一方で、株の場合は信用取り引きを含め、ダウンサイドがどれだけ出るかはわかりません。

ベンチャー投資は「コールオプションの買い」の要素が強いため、事業会社の場合、ある程度のバジェットを子会社に持たせて自由にやらせるというが非常にマッチします。他方、投資が本業である金融系のベンチャーキャピタルには、感覚的には「コールオプションの買い」という認識は恐らくあまりないはずです。なぜならば、投資が本業だから、失敗は許されないのです。

4.リアルオプションを持っている状況前回にも書きましたが、事業会社がベンチャー投資をすることで、今後の事業戦略においてリアルオプションを持つこととなります。事業会社がCVCを組成して、ファンドを通じて複数のマイナー出資をすればそれだけ今後可能性が増えることとなります。複数の投資を行うので、本体で管理するよりも、ファンドで管理した方が効率が良くなる可能性があります。

以上、事業会社がCVCを組成するメリットを見てきました。一方で、「CVC」を通じてのベンチャー投資にはもちろんデメリットがあります。一番のデメリットは、主にマイナー出資になってしまうことと、他の投資家との共同出資になってしまうことでしょう。イケてるベンチャー企業に投資をしたい場合、CVCを通じてのマイナー出資よりも、経営権に影響を与えるぐらいの投資をした方がいい時もあります。そのような場合は、事業会社が直接本体で投資をした方が、本業の事業とベンチャーの事業のシナジーをうまく行かせることが出来る確率が高まるでしょう。「CVC」を通じての場合は、他の投資家がいたり、ファンドを通じての投資となるため、シナジー効果の期待は限定的となってしまいます。

ベンチャーキャピタルを通じての投資と事業会社本体での投資
以上のように整理することで、事業会社によるCVCを通じての投資と、本体での投資の特徴が見えてきました。「CVC」を通じて投資をする場合は、主にシードやアーリーステージのベンチャー企業に対してであり、小額の金額を多数のベンチャー企業に出資することが考えられます。小額しか入れないので、他の投資家との協働も重要になってきます。

かたや、レイターステージのベンチャー企業への投資の場合は、「CVC」のようにちまちま投資をするというよりも、本業とのシナジーを考慮に入れて、本体からがっつり投資をすることとなります。

実務では「CVC」という時には、事業会社が持っているベンチャーキャピタルといった狭義の意味で使われますが、CVCとしての活動、本質を考えると、広義の意味でのCVCには事業会社がただベンチャーキャピタルを保有しているという以上の意味があります。

Googleは2006年にYoutubeを買収しましたが、このときマイナー出資しかしなければ恐らくYoutubeの急激な成長は見込めなかったでしょうか。マイクロソフトfacebookに出資をしていたことは有名ですが、当時の出資額は株式総数のわずか1%程です。マイクロソフトとしてはリアルオプションは持っている状況ではありましたが、今のところ、少なくとも私はマイクロソフトfacebookシナジーを感じることはあまりありませんし、そのような話は聞きません。

現在アメリカのベンチャー企業の9割以上は、M&Aでexitしています。すなわち、ベンチャー企業のほとんどが事業会社に買収されることを選んでいるのです。「CVC」は、事業会社にとっては、ベンチャー企業を最終的に買収するためのあくまで手段であり、最終的には事業会社は「CVC」ではなく、本体でベンチャー企業を買収して、自社の本業とのシナジーを得ることで、買収企業する事業会社も被買収企業となるベンチャー企業も加速度的な成長が可能になります。

ちなみにですが、マイクロソフトは2012年4-6四半期に1986年に上場して以来の初めての赤字となりました。マイクロソフトのビジネスモデルで赤字になることは想像しにくいですが、その理由は2007年に63億円で買収したインターネット広告会社アクアンティブののれんの減損処理によるものです。簡単に言うと、ベンチャー企業を高値で買いすぎたものの、当該企業の業績がいまいちなので、損失計上したということです。CVCは事業会社にとってもやはりリスクの高い投資なのです。FacebookはWhats appを約2兆円もの高値で買収しましたが、CVCとして成功するかどうか今後要注目です。