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未来の金融をデザインする

主に経済や金融に関する記事や開催した読書会や勉強会の報告を書いております。

ひらめきとイノベーションの授業

ひらめきとイノベーションの授業

ひらめきとイノベーションの授業

本書の概要
本書では、どのようにして新しいもの、イノベーティブなものが生まれるのかを、図や絵をたくさん交えてやさしく紹介しています。「イノベーション」という言葉自体はコモディティのように世の中にあふれていますが、具体的には何がイノベーションなのか、そしてどうすれば起こすことが出来るのかを、自分の言葉でわかりやすく説明できる人は、私を含め、あまりいないのが実際だと思います。著者が自身の体験をベースに自分の言葉でわかりやすく、同時に決して自身の思い込みではなく、過去の様々な研究を紹介しながら、イノベーションを説明しているところに、本書の特徴があります。本書のメッセージを一言でいうならば、「新しい物を作る際に最も重要なことは、その人の強烈な思いである」ということになります。このことを説明する過程で、イノベーションを起こすための方法として、ブレストのやり方、習慣化の方法、チームの作り方を著者ご自身の体験を踏まえながら、紹介しています。

自分自身に嘘をつくということ
その中でも私が一番印象に残っているのはP69の「人間は自分自身にも嘘をつくことがある生き物なので、その点はよく考える必要があります」という箇所です。この一文を読んで、なぜ自分の考えを人に説明するのかが難しいのかわかった気がしました。それは、人は自分に対してさえも嘘をついてしまうからです。嘘の考えを人に伝えて、人に思いや考えが伝わるはずがありません。自分が自分に嘘をつくということを今まで認識していなかったので、この文章は強烈でした。そして、この「自分に嘘をつく」ことが実際にイノベーションの阻害につながるのだと思います。

私が好きなジョブズのスタンフォード大学での講演があります。「stay foolish, stay hungy」で有名なあの講演です。このスピーチを300回ぐらい聞いたときに、ジョブズが言わんとしていることが、徐々にわかってきました。私が考えるジョブズの本スピーチのエッセンスは「follow your heart」、すなわち、「自分に正直であれ」です。実際、このスピーチでは「connecting dots」「愛」「death」の三つの話が出てきますが、どの話にも「follow your heart」的なことが出てきます。

  • You have to trust in something — your gut, destiny, life, karma, whatever.
  • As with all matters of the heart, you'll know when you find it.
  • You are already naked. There is no reason not to follow your heart.
  • Don't let the noise of others' opinions drown out your own inner voice.
  • And most important, have the courage to follow your heart and intuition.

こういったことを踏まえた上で、ジョブズが引用している「stay foolish, stay hungry」という言葉は、結局のところ「自分の正直であれ。世間からみて馬鹿に見えても、そのままで居続けろ、自分の心にどん欲であれ」と言っているのだと私は解釈しました。

「自分の心に正直である」ことなんて、シンプルで簡単だと思いますが、慎さんも指摘しているように、人は自分にさえも嘘をつくので厄介です。ジョブズはそのことを心の底から理解し、そして、一見シンプルな「自分の心に正直である」ことが今の世の中、実は最も難しく、このことがイノベーションを阻害している要因だということがわかっていたのではないかと思います。

イノベーションとインセンティブ
大人になればなるほど、人間関係のしがらみは複雑で大きくなるものです。その理由は人々のインセンティブが多岐に渡るからではないでしょうか。そうなると、自分自身が何を考えているかさえもよくわからなくなってしまいます。上司から「イノベーティブなものを考えろ」と指示されて、イノベーティブなものを作れた例を聞いたことがありません。本書でも多く紹介されているように、イノベーションは本人の強い思いから生まれます。自身の心に正直であると、自分が感じる世の中に対する違和感を容易に感じ取れます。この思いが強ければ強い程、行動に結びつく。こういった人達が世にいうイノベーターではないでしょうか(もちろん行動する中で、思いが芽生えていき、さらに行動を強化するという循環もあります)。

私は今年の1月1日から毎日日記を書いています。別にfacebookやブログに公開するわけではありません。書く理由は、自分がその日その日に何を考えているかを整理するためです。言い換えれば、自分の心と対話をするためとも言えます。人に見せることを前提としていないため、へんに格好をつけたり、恥ずかしく感じることもありません。悩み事があっても、落ち着いて自分の考えていることを文章に落としてみると、不思議な物で、何が具体的に悩みなのかもわかってきて、同時に自分にとって本当に大切なものも見えてきます。こういった背景もあり、「自分の気持ちに正直になる」ことの重要性は非常に共感できました。

本書を通じて、思いに関してより 興味を持った方は、同じく慎さんが書かれた「正しい判断は、最初の3秒で決まる 投資プロフェッショナルが実践する直感力を磨く習慣 」をお勧めします。こちらのテーマは「直感」と「信念」です。本当に素晴らしい本で、一人でも多くの人に読んでもらいたいと思い、会社の人にも配りました。

イノベーションについての方法論はほぼ確立されています。後は、個々人の思いです。この点については、他力本願では間違いなく無理でしょう。自分の気持ちに正直になるためにも、強くお勧めする一冊です。