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未来の金融をデザインする

主に経済や金融に関する記事や開催した読書会や勉強会の報告を書いております。

【開催報告】1月19日(木) LRJ&FED合同勉強会「地球高齢化の時代到来」中嶋氏講演会

LRJ(日本再生連盟)との合同勉強会(第二回)は「地球高齢化の時代到来ー米国・中国・インドの高齢化と日本」と題して、神戸市外国語大学専任講師の中嶋圭介氏にご登壇いただき、講演を行っていただきました。平日夜にもかかわらず20名を超える方にご参加いただき、大変好評に終わることができました。ここでは中嶋氏の講演を中心に、勉強会の内容をご報告させていただきます。
当日の講演資料はこちら

【講師】中嶋 圭介(なかしま けいすけ)神戸市外国語大学国語学部 法経商コース 専任講師
米国ワシントンDC所在のCSIS戦略国際問題研究所・地球高齢化研究部にてインターンを務め、研究助手、研究員、部長補佐&主任研究員を経て、 2011年3月より非常勤研究員。日本へ帰国し、現職。2011年6月より、リコー経済社会研究所社会構造研究部客員主任研究員を兼務。
http://www.knakashima.net/

■はじめに

「地球高齢化」問題、英語では「Global Aging」という。欧米諸国を中心に1980年代から語られ始めたこの問題は、環境や金融などと同様、世界共通の課題として捉え、課題解決にあたらなければならない。日本国内で少子高齢化が進行していることは自明であるが、そこに今後は、韓国、台湾、中国での爆発的に進行している高齢化問題が第二波として、日本経済に降り掛かることが予想される。アメリカではすでに、グローバルな問題であると認識するとともに、自国の将来の意思決定上の重要課題として捉えている。

■全体総括

世界中で発生している「地球高齢化」問題。中でも特徴あるアメリカ、中国、インドについて俯瞰する。アメリカは先進国の中で唯一、今後高齢化の進行がストップし、安定的な人口動態で推移する。方や、他国は今後「高齢化」の波に追いやられていく。例えば、国境を接するメキシコは今後労働人口が減少し、メキシコ国内での労働賃金が高まれば、アメリカへの移民を行わないという意思決定がなされ、アメリカ経済に影響を及ぼす可能性がある。中国は一人っ子政策という「劇薬」の副作用が、2020・30年代にかけ現れ始める。2010年はまさにその「副作用」に備えるための準備期間となる。中国と比較し、インドは相対的に、人口学上望ましい人口動態となる。中国が「高齢化」に阻まれた時、その影響をどこまで吸収できるかが、非常に注目すべき点である。

■5つの派生経路

「地球高齢化」問題による先進国の課題(財政課題、経済課題、金融課題、社会・政治課題、地政学課題)に分け検討していく。
・財政問題
公的年金や医療介護費用の負担増加は避けられない。現在、日本では一人当たりの高齢者に対し、三人の労働者世代が支えているが、2050年にはこの比率は一対一となる。今の公的年金の制度設計は破綻に向かっていることは明らかである。しかし、日本では直近の公的年金改革による削減率が先進国トップであるという研究結果もあり、改革の進行は認められるものの、それ以上に財政負担の深刻化が大きいのが現状である。ヨーロッパを始めとする各国でも将来の財政負担の増大は予想されているが、現時点で国民の税金負担が大きいため、増税の余地は非常に少なく、高齢者給付の削減を余儀なくされている。
・経済課題
労働者の減少・高齢化により、経済成長が鈍化していく可能性もある。2050年までの経済成長を推計した場合、人口動態が安定しているアメリカでは一定成長が見込めるが、高齢化が進行するイタリア・ドイツ・日本では低成長、もしくはマイナス成長が予測される。消費市場は多様化・縮小し、シニアマーケットや海外マーケット展開など、企業のビジネスインプリケーションの変化が予想される。
・金融課題
ライフサイクル仮説で考えると、dissave(消費や借入が多い20、30代)、save(老後に備え貯蓄する40,50代)、dissave(資産を取崩す60代以降)となり、高齢化では、dissaveの世代がsaveの世代に食い込むこととなる。日本では、2050年成人に占めるdissave世代は70%となり、save世代30%と比べ相対的に高い割合となり、その結果、資産の売り圧力がかかることとなり、個人資産も現在の水準を維持できず、貯蓄率も下がることとなる。反対に、政府累積債務が持続不可能なレベルに達することとなる。さらに、これまで最大の債権国であった日本が、債務国になるという国際資本移動の逆流も起きることとなる。
・社会・政治課題
高齢化が進行している社会は、実力行使などの意思決定・長期的な見返りや成果に対する投資に消極的になりがちである。選挙民に対する高齢者割合が増加すると、短期的な政策、抜本的な改革は後回しになり、政治家もその意向に沿う政策運営に軸を置くことになる。高齢者優遇の政策が優先されれば、世代間闘争が顕著になる。日本国内において、出生率を今後0.5、0.6と 上げるには、半世紀〜1世紀と三世代かけて行うことが望ましい。長期的な政策運営をすべく、政治家が高齢者層を説得していく必要が有る。
地政学課題
世界の人口割合を見ると、アメリカは今後も安定的であるが、西ヨーロッパ諸国や、日本は縮小傾向に陥る。GDPも同様である。人口は国力とイコールにあり、2050年にかけても人口大国であるインド・中国・アメリカを中心としたパワーシフトが起こる。

■アメリカの人口動態

アメリカの人口動態は先進国内において非常に特殊といえる。アメリカの高齢化は今後ストップすることが予測されている。何故アメリカだけが安定した人口動態にを維持できるのか。他の国と違う点でまず挙げられるのは移民大国であるということである。しかしそれ以上に、先進国内において高い出生率を維持できていることが理由として挙げられ、その背景には民間の支援(家庭や職場での支援)定着が挙げられる(アメリカでは政府の支援は他国に比べ非常に少ない)。多種多様な人材を有するアメリカでは、あらゆる働き方に対応できる社会の形成がされており、「産みやすい社会」の持続が今後も予想される。

■中国

中国の人口動態は、人為的な人口政策・一人っ子政策なくして語れない。70年代から国を挙げて子供の数を減らすキャンペーンが行われ、一人っ子政策が執行された80年代を前に、合計特殊出生率は6人から10年で3人に減少している。その後は現在の1.6人に推移したが、この人口半減の世代が一斉退職し、高齢者となるとその影響は非常に甚大なものとなる。2040年、60歳以上の人口は4億人(実に日本とアメリカの総人口を足した人数と同じ)と推計されるが、そのうち1億人は中所得層、残り3億人(アメリカの総人口と同じ)低所得層となる見込みである。何故、これほどの規模の人口政策をとったのか。マルサス人口論とつながるが、1960、70年代に起きた人口爆発により、当時は中国だけでなく、アフリカ、韓国、日本でも国が子供を減らす大々的なキャンペーンを行っていた。中でも、東アジア諸国はその政策効果が非常に高く、その影響が現在の高齢化問題につながった。中国もこうして人為的に政策的に人口を落としてしまったため、経済成長を享受せず高齢化を迎えつつある。同じ年齢構造を持っていた他国の各年代と比較して、中国は個人所得が非常に低い。つまり、高齢化の進行度が先に迎えてしまい、「早期老化」が起こっているといえる。本来高齢者で起こるような病気が現在の中国で起きている。

■インド

中国との比較でインドを見てみると、人口動態では2050年も変わらず、「綺麗な」人口ピラミッドを維持したまま半世紀を行くと考えられている。2010年、2050年時点の人口数を比較してみると、インドは2010年に比べ2050年では+6億人となるが、中国では+2900万人程度となる。労働者世代の人口数で見ると、インドは+4億2400万人、中国では、マイナス8300万人となる。地球高齢化は先進国を中心とした「第1波」、中国を中心とした東アジア諸国の「第二波」が襲いかかる。この二つの波をインドがどこまで吸収できるかがポイントとなっている。何故インドだけが人口動態を維持できているのか。インドは幸か不幸か、1952年という他国に比べ早期に人口政策を進めたにも関わらず、統治能力に問題があったため、トップからの指示が末端まで響かず、人口政策が効かなかったのではと推測される。

■日本と各国の今後について

米国は、唯一の超大国として先進地域内での存在感・影響力はむしろ安定的拡大傾向するものとみられる。同地域内の同盟・友好国との関係を堅持することを優先事項としつつ、台頭する新興経済国から新たなG2・G3を形成するメンバーを模索。特に中長期に中国は取り込む方針でいる。日本内では「米国の凋落」などささやかれているが、見限るのは間違いである。米国の思惑を理解したうえで、対米、米国と新台頭国らの間 で外交、安保、ビジネス上の位置づけを考えるべきである。

2020年代以降の中国の人口動態は、嵐模様であり、その影響は必ず来る。過去数十年の急速な工業化、都市化、近代化、自由化で蓄積してきた「社会的ストレス」に追い打ちをかけて「高齢化」問題が襲いかかるる。中国の経済社会の安定性と共産党リーダーシップの政治的正当性が損なわれれば、社会的混乱、経済的大打撃、中国当局の態度を硬化させ、権威主義的性質の強い体制へ揺り戻しが起こる可能性も懸念される。社会的ストレスの「ガス抜き」を行うことで対中と協調することは、こうしたシナリオ回避に役立つ。日本にとってのビジネスチャンスであり、経済・安保外交上の交渉カードにもなる。

インドは向こう半世紀、人口ボーナスのメリットを享受し続ける。中国リスクを見越して生産・販売・投資の重心シフトの世界的受け皿として期待される。しかし、人口ボーナスの恩恵を受け、それを経済活動の成長につなげる「活用能力」に多くの不安要素を残す。日本は、この能力強化を助けてやることを、対インドでビジネス・チャンス、外交カードとするべき。米国も、同じ英語を母語とし、民主主義の価値観を共有するインドへの期待と信頼感は、日本で一般的に認識されている以上に高い。この二国の関係性は非常に強い。米中印の三角関係で日本の立ち位置を練るべきであるといえる。

■関連文献

以下は勉強会で紹介された関連文献です。

The Age of Aging: How Demographics are Changing the Global Economy and Our World

The Age of Aging: How Demographics are Changing the Global Economy and Our World