【開催報告】1月14日(土) 金融経済読書会/マルサス『人口論』活動報告
■全体総括
2012年1回目のFED企画金融経済読書会は、上記の一文が有名な、1797年にマルサスが書いた「人口論」でした。
- 作者: マルサス,Thomas Robert Malthus,斉藤悦則
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2011/07/12
- メディア: 文庫
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マルサスの命題自体は、産業革命により生産性が劇的に上昇したことにより、すでに成り立たなくなっていますが、人口論の内容は今読んでみてもまったく色あせていません。むしろマルサスが提起していた問題や考え方は今でも通用する部分が多いです。例えば、本書では以下のことが言及されています。
・特に重要なのは労働の名目賃金と実質賃金の差である。これこそが他の何よりも、振動の存在を一般の人の目から隠すのに役立つのだ(P43)
・貧困は、不平等な社会においては人口の大部分に、そして平等な社会においては人口の全体に及ぶ(P44)
・庶民がしばしばおちいる困窮から彼らを救済するために、イングランドでは救貧法が制定された。たしかにそれは個人の不幸を多少は緩和したかもしれない。しかし、それは一般的な弊害をさらに広くばらまいてしまった。まさに憂うべきことである(P66)。
・人口が増加するか、停滞するか、それとも減少するかは、まさしくひとびとの幸福、あるいは不幸の度合いに依存するのである(P154)。
・私が思うに、絹やレースをつくる二十万人を扶養する富が、もし食糧を増産する二十万人を扶養するために用いられたら、その方がはるかに有用な富の使い方である(P240)。
「人口論」では、人口を切り口に、経済のあり方や経済の政策についても色々言及しています。そして、これらは現在世界が直面している課題とも共通してます。古典の凄さを実感出来る1冊です。
■ディスカッション内容
ディスカッションでは、様々なバックボーンをお持ちの方が多様な視点から「人口論」を読み解きました。また偶然にも中国の人口問題について学生時代に研究されていた方が二人もいらっしゃり、専門的な議論やデータもたくさんシェアしてくださいました。議論された主の内容は以下の通りです。
- 今後の経済成長は人口増加が必要となってくる。今元気があるのは中国。しかし中国は近い将来今のように少子高齢化になるのは確実。人口からみれば、インドやアフリカが今後注目される。
- 経済成長で貧困を克服が出来るのか。日本は経済成長によって物質的豊かさは手に入れた。他方、相対貧困率は高い水準にある。相対貧困率は経済成長では克服するのは難しい。他方、再分配を強めると成長が鈍化する。マルサスの救貧困の考えは今でも色あせていない。
- 産業革命前と後で、人口増加に対する善悪(プラス面とマイナス面)が入れ替わった。例えば、産業革命前では、食糧の制約から人口抑制が一人当たりの物質的所得を増やすことに貢献したが、産業革命後は、むしろ人口を増やすことが、一人当たりの物質的所得上昇に貢献するようになった。
- マルサスが指摘していることは、産業革命前でも後でも本質的にはそれほど変わらないのではないか。
- 産業革命後は、確かに食糧の制約といった点では、人類はあまり問題を抱えることはなくなった。
- 産業革命後は、多くの子供を産むことが生産性上昇につながった。他方、現在は一人の子供を育てるのにも、多くの養育費がかかるようになった。生活をしていくためには多くの子供を産むよりも少ない子供を産むほうが望ましい。そういったことが、日本や中国の少子高齢化の背景にあるのではないか。
- 経済モデルから考えてみる。成長論におけるマルサスモデルは、生産要素は土地と労働投入量のみだった。産業革命後の成長理論であるソローモデルでは、生産要素は、資本、労働、技術革新になっている。マルサスの時代には、資本や技術革新がなかったため、食料の制約が人口の抑制につながったが、産業革命後は、食糧の制約がほとんどなくなった。現在の成長理論モデルの生産要素は、物的資本、人的資本、技術知識、天然要素となっている。生産性を挙げるためには、人的資本の投資をする必要があるが、これにはコストがかかる。先進国では、このことが人口増加の抑制の原因の一つになっていると思われる。
- 日本では少子高齢化が問題となっている一方、世界では人口爆発が問題になっている。このギャップを埋め合わせるような議論はあるのであろうか。
- アジア各国も少子高齢化社会を迎えようとしている。日本はそのトップランナーとなっている。
- 今の時代人の移動はどう考えるべきか。日本や中国では、地方から都会へ移動する動きかがある。他方、世界では、先進国が発展途上国へ進出する動きが見られる。都市部のメリットと地方のメリットをそれぞれ考える必要がある。また、その背景にはどういった人のインセンティブがあるかを読み解くことが重要になる。
- マルサスが指摘した人口の制約となる食糧問題は、現在のエネルギー問題と置き換えることができるのではないだろうか。
- 当時は人が生きるにあたって食糧が問題になっていたが、今は人が生きるにあたって何が問題になっているのであろうか。→雇用の問題が大きいと思う。人が生活するには、働いて収入を得る必要がある。現在は、グローバル化が進み、雇用(人件費)は安い方向へと向かっている。そのような状況の中、単純労働に従事しスキルを持たない人は、働き口を得ることが出来ない。マルサスのいう食糧は今で言う働くということではないか。ドラッカーは知識社会、変化への対応という表現をしている。
■関連文献
以下は読書会で取り上げられた関連文献です。
- 作者: グレゴリー・クラーク,久保恵美子
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2009/04/23
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デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)
- 作者: 藻谷 浩介
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2010/06/10
- メディア: 新書
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- 作者: 加藤久和
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2007/11
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人口学への招待―少子・高齢化はどこまで解明されたか (中公新書)
- 作者: 河野稠果
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2007/08
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- 作者: 佐和隆光
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 1999/10
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マクロ経済学 (New Liberal Arts Selection)
- 作者: 齊藤誠,岩本康志,太田聰一,柴田章久
- 出版社/メーカー: 有斐閣
- 発売日: 2010/04/15
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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- 作者: 川島博之
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2010/10/29
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以上となります。ご参加された皆様、本当にありがとうございました。今後ともFEDをよろしくお願いいたします。