未来の金融をデザインする

主に経済や金融に関する記事や開催した読書会や勉強会の報告を書いております。

【開催報告】2016年10月23日(日)金融経済読書会「なぜ今、私たちは未来をこれほど不安に感じるのか?」

今回の金融経済読書会では「なぜ今、私たちは未来をこれほど不安に感じるのか?」を課題図書とするとともに、著者である松村さんをお招きしました。

 本のタイトルにあるように、現在多くの人が未来に対して漠然と不安を感じているという状況に対して、その不安の根源は何なのか、そして進撃の巨人アイアムアヒーローといったよくわからない巨大な動きに対して人々が直面するという漫画が流行っている現実の社会において、今後世の中はどうなっていくのか等といったことを考えるきっかけにしたいと思い、今回は本書を課題図書とした読書会を開催することにしました。

今回の読書会では、①最初に著者の松村さんにご講演していただき、②その後、参加者がグループに分かれて、本書において議論したい論点を出してもらうとともに、③それらの論点に対して松村さんからコメントを頂戴するといった構成になりました。 

①の松村さんのご講演では、本書を書くきっかけとなった問題意識、なぜ今回のような小説形式にしたのか、またなぜ漫画や音楽、アートといった題材を多く本に取り入れたのか等、本書が完成するまでの裏話を多く聞くことができました。「ここだけの話」というのが結構ありましたので、ここでは詳しくは書けないのは残念ですが、松村さんは元外資系金融機関のトレーダーということもあり、国債金利スワップLibordiscount rate、銀行と国家の関係、社会保障の問題等マーケットの現場にいらっしゃった実務家ならでは視点で、わかりやすい解説をしてくださいました。 
 
②のグループディスカッションでは以下のような意見が出ました。
  • 今後の引き続き経済は成長できるのか、もしくは経済の成長を前提とすべきではないのか。
  • 成長の限界という論点について、AIが成長を促すきっかけになるのではないか。
  • モヤモヤとした不安の背景には、社会、政治、メディアに対する不信感が募っているというのがあるのではないか。今後はSharing Economyといった新たな経済の形において、いかに人々や物事が信用を獲得することが重要になってくる。すなわち、信用創造がキーワードになってくるのではないか(ここでいう信用創造とは、中央銀行が金融政策及び市中銀行の貸出を通じて、マネーストックを増やすといった意味での信用創造とは異なります。)。
  • (若者の参加者の意見として)生まれてからずっと低成長だったので、今のような低成長時代が当たり前に感じており、特段不安は感じない。
  • -成長の限界ということに対して、総論では賛成だが、既得権益者が各論反対ということになっているのだろう。莫大な財政赤字に対して、ハードランディングをするしかないのではないか。
  • ポスト資本主義に至るプロセスがどうなるかが重要ではないか。いわゆる定常経済という状況について、地方経済はすでに定常経済になっている可能性がある。そして、そのような地方経済にはマイルドヤンキーといった地域密着の動きも出てきている。財政赤字については、ハードランディングをするのではなく、年金だけ一部デフォルトにするなどのソフトランディングも考えられるのではないか。 
 
課題図書の感想とも言える上記②に対して、③で著者の松村さんからは一つ一つ丁寧にコメントを頂戴しました。元外資系金融でのトレーダーというバックボーンもあり、コメントにおいて、過去の経済情勢の経緯、リーマンショック時に一度リセットするということも考えられた等の示唆に富むコメントをいただきました。 
 
本書の主張及び今回のディスカッションを誤解を恐れずに乱暴にまとめてしまうと、「世の中は、財政政策、金融政策、テクノロジー等でなんとか経済を成長させようとしているが、成長には限界があることがみんなうすうす気が付いている。そして、財政政策、金融政策、社会保障問題の結果として、日本を筆頭に莫大な財政赤字を世界中の国々は抱えてしまっている。社会保障については、将来実際に支払う必要があることが確定しているものの、それらの支払いは高い経済成長と高い運用利回りを前提としている。しかしながら、経済成長は定常状態に到達するとともに、将来の社会保障費を支払うような高い運用利回りは達成できていない。となると、今後はいつか社会保障費の支払いに限界に来るが、政治的文脈において、このようなことは政治家はいうことはできない。社会保障が将来手当てされなくなると将来に不安を感じてしまう。将来へ不安が消費や投資を萎縮させて、経済は益々縮小してしまう。さらに日本では事実として、人口減少が進んでいる。人口が減少すると一人あたりGDPは減ってしまう。これらの矛盾をどこかで解消する必要があるが、その手当ては必ずどこかで痛みを伴う。一方で、その痛みを受ける覚悟を政治家はもちろん国民もできてない。本質的には経済が持続的に成長さえすればこれらの矛盾はすべて解消されるが、それが実は無理なんじゃないかと気付き始めていることが不安の正体の一つではないか」ということになると思います。  
 
こういった整理をしていると、なんだかとても暗い感じがしてきますが、ノストラダムスの大預言のような不可避な不安ではなく、上記は我々が生きている社会におけるリアルな課題であるので、目を背けずにきちんと向かいあうとともに、自分は何が出来るのかを考えることが課題解決の第一歩かと思います。 
 
FEDとしてもこういった経済や金融に関する多くの課題を考えるきっかけとなる場を今後も提供して行きたいと考えております。 
 
なお、最後になりましまが、著者の松村さんからは「今回は核心についてお話しすることができなかった。また機会があれば特別編としてお話ししたい。」とコメントを頂戴しております。今回参加された方も出来なかった方もご興味があれば、いいね!やコメントを頂戴できますと幸いです。 
 
 

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Kindle unlimitedで読める経済・金融関連の本

kindle unlimitedの対象になっている経済・金融関連の本をいくつかご紹介します。経済、投資関連では株やFX系の本が多いですが、探せば結構名著も出てきます。いい本が見つかった時は、古本屋で探していた本を見つけた時の気分に似ていますね。

ミクロ経済学の力

ミクロ経済学の力

東大の神取先生が書かれた名著。私が学生時代の頃は学部レベルのミクロ経済学を学ぶにあたっては武隈ミクロか西村ミクロが定番でしたが、今の定番はこの本か八田ミクロでしょう。この1冊だけでもunlimitedに入る価値があるかと思います。

ざっくり分かるファイナンス 経営センスを磨くための財務 (光文社新書)

ざっくり分かるファイナンス 経営センスを磨くための財務 (光文社新書)

「道具としてのファイナンスの」著書が書いているコーポレートファイナンスに入門書。これを読めばコーポレートファイナンスの基礎的な考え方を一通り知ることができます。企業の格付と株価ってどう違うのか等、実はあまりきちんと知られていないこともきっちりと抑えられています。

道具としてのファイナンス 問題集

道具としてのファイナンス 問題集

「道具としてのファイナンス」の著書が約10年ぶりに書いた新著が早くもunlimitedの対象になっています。先週この本を買ったばかりなのですが・・・(涙)

フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略

フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略

クリス・アンダーセンの名著フリーもunlimitedの対象になりました。2009年に発売された本書の重要なメッセージのひとつは、IT化が進む世界では、複製コストが限りなく小さくなることから、フリービジネスが展開しやすくなるということです。本書が発売された当初はmだスマホがそれほど普及していませんでしたが、その後、スマホが普及する中で「フリー、IT、プラットフォーム」という3種の神器がビジネスの中で猛威を振るうようになるのはご存知の通りかと思います。今読むとすでに古典のような内容にもなりますが、ないようないまだにはプレイスレスかとおもます。

インベスターZ(1)

インベスターZ(1)

ドラゴン桜の作者が投資を題材に描いた漫画。以前から気になってはいたのですが、kindle unlimitedに入っていたのを知り早速読みました。アマゾンの書評では「この本は投資の本ではなく、投機の本」と書かれていたので、あまり期待してはなかったのですが、思ったよりもまともま内容でした。プロスペクト理論機会費用、ファーストペンギン、ゴールドラッシュ時に金を掘る人になるのではなく、金を掘る人を対象にするビジネスを展開する話等、元ネタを知っている人はより楽しめまし、普通に勉強になります。アマゾン書評で書かれていた「投機」の定義はよくわかりませんが、本書では比較的短期で売り買いするシーンが多数描かれているので、それを持って投機としているのかとは思います。繰り返しとなりますが、書かれている内容は個人的にはまともだと思います。断言的な物言いが多いのはちょっと気になりますが、それぐらいでないとメッセージ性が弱くなるので、あえてそうしているのでしょう。

以上です。

2016年はファイナンス関連の本が豊作

今年は森生先生の10年ぶりの新著であったり、「道具としてのファイナンス」の問題集が発売されたりと、ファイナンス関連の本がたくさん発売されています。シチュワードシップコードやコーポレートガバナンスコード、伊藤レポートの影響もあるかと思いますが、金融の勉強会を主催している身としては嬉しく思います。以下、今年発売されたファイナンス関連の本をご紹介します。どれも比較的読みやすい本かと思います。

バリュエーションの教科書

バリュエーションの教科書

ファイナンスの哲学―――資本主義の本質的な理解のための10大概念

ファイナンスの哲学―――資本主義の本質的な理解のための10大概念

道具としてのファイナンス 問題集

道具としてのファイナンス 問題集

一生モノのファイナンス入門―――あなたの市場価値を高める必修知識

一生モノのファイナンス入門―――あなたの市場価値を高める必修知識

カール教授のビジネス集中講義 金融・ファイナンス

カール教授のビジネス集中講義 金融・ファイナンス

主観ですが、番号が進むにつれて内容はより読みやすく、また入門的な内容になっています。
①と②はFEDでも課題図書として読書会を開催したいと思っております。ご参考まで!

「Brexit(EU離脱)と世界経済」_開催報告_2016年7月3日(日)FED特別勉強会

イギリスでの国民投票の経て、イギリスのEU離脱という民意が示された結果を受けて、7月3日にFED特別勉強会として「BrexitEU離脱)と世界経済」というテーマで勉強会を開催しました。急な開催だったにも関わらず、当日は50人以上の方にご参加いただき、皆様がいかにイギリスのEU離脱という事象に関心を持っているのかを実感しました。

当日はイギリスのEU離脱についての論点整理として、まずは主催者側でプレゼンテーション×2を行いました。プレゼンテーションでは、国民投票の地域別の結果、年代別の結果、EU離脱派はどう言った理由で離脱を主張するのか、イギリスのEU離脱が決まる前までの世界経済の景気の動向及びイシュー、イギリスのEU離脱はイギリス経済、ヨーロッパ経済、世界経済にどのような影響があり得るのか、イギリスのEU離脱の今後の流れ等を整理を行いました。

次にグループに分かれて、イギリスのEU離脱が1.日本経済に与える影響、2.日本企業や日本の消費に与える影響、3.世界経済に与える影響、4.マーケット(株、為替、金利等)に与える影響、そして5.政治に与える影響の5つについてフリーディスカッションを行いました。

フリーディスカッションでは以下のような議論及びコメントがありました。

  • EUがバラバラになると、中国の個別交渉が強くなるのではないか。
  • 円高株安が定着するのではないのか。そうなると、製造業への影響が大きくなる。企業はコストを削減するため、宣伝広告費を削減するようになる。新卒採用も減らすのではないか。
  • 今後の不透明性が高まることで、消費マインドの冷え込みの影響が強いのではないか。イギリスがEU離脱を機に、中国に急接近するのではないか。このような状況において、AIIBでは鳩山が理事になった。この動きには日本にはプラスに働くのではないか。
  • 日本において、景気動向につき、不透明感が続く。結果、消費マインドが下がる。円高仕入れ)が下がる。不透明感があり、輸入企業もマイナス。企業の収益にマイナス。正社員と非正規との格差が広がる。
  • 円高を通じて、日本企業もよりグローバル化を進め、アジアシフトが加速していくのではない。そうなると、日本の得られるチャンスも多いのではないか。日本も移民政策をより緩和をすべきではないのか。
  • 金融市場は8年周期での変動があると言われている。今年はリーマンショック後からちょうど8年。落ちる相場。円安になる材料はない。為替リスクのないグロース株への投資や空売りが投資戦略として良いのではないか。
  • 当日の株価の動きを振り返る。ボラティリィの高い時には動くべきではない。マイナス金利はやめてほしい。日銀にやれることはもうないのではないか。日本の企業の成長戦略を重視すべき。
  • 50条を実際に発動するのか。イギリスの国内政治。なかなかやらないのではないか。なんでこんなことになってしまったのか。メディアの議論。残留すべきを国内。タブロイド紙が離脱、高級紙は中立。メディア側の反省。オランタやイタリアの離脱の議論。都構想の投票問題をダブった。世代間での投票の格差。高齢者は反対。ブレグジット、世代間の闘争とも必ずしも得られないのでは。移民のメリットとデメリットは層によって異なる。世代や業種によっても違うので、解釈が難しい。複雑なイシューなのにワンイシュー化することで、
  • 本当にイギリスのEU離脱につながるのか。法的拘束力はないはず。

上記のように、非常に多岐にわたって議論が行われました。FEDでは、いつもFEDでの紹介を説明しているように、勉強会の方針としては、「1聞く」「2聞く」「3聞く」「4帰る」ではなく、「1聞く」、「2考える」、「3対話する」、「4気づく」、「5そして、デザインする。」という設計を意識しております。

誤解を恐れずに申し上げると「イギリスのEU離脱がよくわからない方、答えを教えます」といったスタンスではなく、「イギリスのEU離脱について一人で考えるだけではなく、参加者とみんなで一緒に考えていきましょう」といったスタンスで会を開催しています。このようなスタンスで開催すると、「答えを知りたかったから来たのに、何も教えてくれなかった」といった参加者からの不満の声があるときもあるのですが、今回は参加者の皆様が自主的に問題意識を持って参加してくださったおかげで、皆様と一緒に考えることができ、結果として多くの学びがあったと感じております。様々なバックグラウンドを持つ皆様の幅広い意見を聞く中で、ウェルズファーゴ銀行の壁に書いていると言われている「私たちのうちの誰も、私たち全員より賢くはない」といったことを実感しました。参加者の皆様のおかげでそれだけ、多くの意見を引き出すことができたと感じております。この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。

同様の勉強会を7月17日(日)にも開催する予定です。
https://www.facebook.com/events/1050815201676348/
ご興味がある方はこちらもご参加していただけますと幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

横山和輝先生著「マーケット進化論」読書会_開催報告_2016年6月25日(土)金融経済読書会

マーケット3部作と名打って行ってきましたマーケット読書会。第1回目は「市場を創る」を、第2回目では「Who gets what」を、そして、最後となる今回は名古屋市立大学准教授の横山先生が書かれた「マーケット進化論」を取り上げ、読書会を開催いたしました。また、今回は特別講師として、著者の横山先生にも読書会にご参加していただきました。

マーケット進化論 経済が解き明かす日本の歴史

マーケット進化論 経済が解き明かす日本の歴史

本書の内容を一言で要約すると、P3に書かれているように「鎌倉・室町時代から昭和初期まで、市場の機能を生かす市場設計を通じて、日本は経済発展を実現した。」となります。「市場を創る」では主にコモディティ市場をいかに設計するかを、そして、「 Who gets what」では価格メカニズムが有効に機能しない状況において、マッチングメカニズムをいかに設計するかが焦点に当てられていました。一方、本書では、過去日本において、いかに市場の機能を活かす市場設計が為されてきたかが焦点となっています、具体的には神仏、安心、産地、交通、教育と言った身近なテーマにおいて、日本はどのようにして市場を活用してきかを歴史に沿って解説されています。

当日の読書会では、著者の横山先生に本書についてのプレゼンテーションをしていただきました。横山先生が経済史を学ぶきっかけから始まり、横山先生が娘さんの幼稚園の授業参観に出たことで本書を執筆するきっかけを得たことや、先生のご専門でもある金融史及び金融システムの話、そして古文を実際に引用しながら、江戸時代ではどのような流通ビジネスが行われていたのか等、どれも興味深いお話ばかりでした。個人的にとても印象的だったのが、江戸時代にはFEDのような自主的な勉強会が神社やお寺等で開催され、皆お酒を飲みながら色々と議論をしていたというお話です。

また、神社には絵馬の裏側に誰かが数学の問題を書き、他の人がその数学の問題を解くと言ったやり取りもあったようです。そして、その絵馬に描かれた数学の問題のレベルが非常に高く、横山先生の同僚(理系)の方でも解くのに苦労したとのことでした。このあたりのお話は、映画化もされた冲方丁の小説『天地明察』にも描かれています。

天地明察 [DVD]

天地明察 [DVD]

その他にも金融教育のお話も興味深かったです。室町時代から証文の書き換え等を通じて、複利計算の考え方が浸透しており、教育の現場でも複利計算が教えられていたそうです。このような複利計算を始めとする金融教育が戦前までは行われていたものの、戦後においては金融教育は鳴りを潜め、代わって重視されたのがものづくり的な発想の教育です。そして、戦前に金融教育を受けていた人達が経営者となり日本の戦後高度経済成長期を支えた一方、ものづくり教育を中心に受けてきた人達がバブル崩壊前後の日本の企業を支えてきたのではないかというお話も非常に興味深く聞きました。

当日のディスカッションにおきましては、日本の歴史教育や、教育、イノベーション、労働のあり方等多岐にわたって議論が行われました。私個人としては学生時代は歴史は暗記科目と考えており、正直それ程面白く感じた記憶がなかったのですが、大人になって経済学を学んだ上で、改めて歴史を学ぶと理解が深まるとともにとても面白く感じています。この感想を参加者にぶつけたところ、「教科書では、経済的な側面ではなく、政治的な側面を重視して説明されている。そのため、経済の流れを理解しづらく、どうしても暗記重視になりがちになってしまうのではないか」との意見があり、個人的にはとても腑に落ちました。

今回の横山先生のプレゼンテーションにおいては、「国家はなぜ衰退するのか」の著者であるダロン・アセモグル やノーベル経済学者のダグラス・ノース、そして「ヤバイ経済学」のスティーヴン・レヴィット、「学力の経済学」の中室先生等の引用がございました。振り返ってみると、FEDの前身とも言えるマンキュー経済学勉強会は、ハーバード大教授のマンキューが書いた「Principles of Economics」を3年かけて読破するという目標から始まり、実際に2009年終わりから開始した読書会は、2012年の年末に終えることができました。マンキュー経済学勉強会では、いわゆるオーソドックスなミクロ経済学マクロ経済学を学びましたが、FEDではマンキュー経済学勉強会を基礎として、幅広く、経済、金融に関する勉強会、読書会を開催してきました。事実、過去の読書会では、横山先生が引用されていたアセモグルやノース、レヴィット、中室先生の本も扱いました。そして、マンキュー経済学ではそれ程深堀されていない市場の制度設計についても、直近過去3回の読書会を通じて、理解を深めてきました。

FEDの読書会では、必ずしも経済学を最短距離で学ぶような設計がなされていませんが、多くの寄り道を経ることで、結果として多くの学びを得ることが出来ると考えています。実際、「マーケット進化論」を読んだり、横山先生のプレゼンテーションを聞く中で、過去FEDで取り上げてき多くの経済、金融の本を思い出しましたし、逆説的ではありますが、こう言った多くの寄り道を経たからこそ、「マーケット進化論」にとだりつくことができたとも感じています。まさにスティーブ・ジョブズが我々に教えてくれた「connecting dots」の重要性を実感しました。FEDでも引き続き学びの場を皆様と一緒に作っていくことで、進化していきたいと考えております。最後になりましたが、今回素晴らしい場を作ってくださった横山先生にはこの場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。FEDでの学びを深化させることで、間接的にではありますが、経済学にも貢献できるようFEDの活動を今後も尽力していきたいと思います。

「Who gets what」読書会_開催報告_2016年6月5日(日)

市場をテーマに取り上げる読書会3部作の第2回目は、2012年にノーベル経済学賞を受賞したアルビン・ロス著の「Who gets what」を課題図書にして、読書会を開催しました。

前回課題図書として取り上げた「市場を創る」において主に取り上げられていた市場は、例えば電力市場や金融市場のように、取引を行う対象の質がほぼ一定であるいわゆるコモディティに関する市場でした。このコモディティ市場においては、価格メカニズムを有効に機能させるための制度設計が重要になってきます。

他方、労働市場における就職活動時のマッチング、学校選択、臓器提供等は価格メカニズムを有効に機能させて最適な配分を達成するには困難な対象です(そもそも臓器の売買は、イラン以外は法律で禁止されています。)。本書では、このような価格メカニズムが必ずしも有効に機能しない状況におけるマッチングの研究内容を解説した本となります。

マッチングとは、本書の定義を用いれば「私たちが人生の中で、自分が選ばれるだけでなく、自分も相手に選ばれなければ得られない多くのものを手に入れる方法を指す経済学の用語」(P10)となります。

例えば、研修医と病院のマッチングを考えてみます。とても人気がある病院には多くの研修医が入りたいと思います。もちろん、病院には受け入れることができる研修医には限りがあります。他方、優秀な研修医は多くの病院が受け入れたいと考えますが、そもそも優秀な研修医は一つの病院にしか行くことが出来ません。このような状況では労働の対価としての賃金を価格として、価格メカニズムを機能させることができません。では、このような状況ではどうすれば最適な組み合わせを達成できるのでしょうか。

読書会当日では、プレゼンテーターのアレンジで、実際に研修医と病院のマッチング状況を想定し、それぞれのグループにおいて、病院と研修医の二手に分かれて、病院と研修医の選好(第一希望、第2希望はどこか等)を仮定した上で、実際にマッチングを行いました。
今回実際に行ったGale & Shapley のアルゴリズムの具体的な仕組みについては本書のP192を参考にしていただければと思いますが、3グループに分かれて行った研修医と病院のマッチングにおいて、Gale & Shapley のアルゴリズムを使うことで、3グループとも同じマッチングを達成することができ、参加者からは驚きの声が多数上がりました。最初は研修医が病院を選ぶという順番で行ったのですが、後半では逆に病院が研修医を選ぶという順番でもGale & Shapley のアルゴリズムを実施したところ、最初と同じ結果が得られ、これまた感動にも近い驚きの声が上がりました(なお、安定マッチングは複数均衡ある可能性があるので、毎回同じ結果になるとは限りません)。

当日は、学生時代にマッチング理論を選考していた方がプレゼンをしてくださるとともに、上記のようなマッチングの実践をしてくださったり、参加者からのご質問にご丁寧に答えていただきました。この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。
加えて、実際に研修医マッチングを経験がしたことがある方の実体験の話を伺ったり、保育園のマッチング問題、就職活動におけるマッチング問題、はたまた合コンでのマッチング等多岐にわたる論点についてディスカッションを行いました。

経済学については、「仮定が非現実的だ」「人は経済学が想定するように合理的ではない」「市場は経済学が言うようにうまく機能しない」といった批判がよく行われています。確かにそう言った一面があるのは事実でしょう。一方で、マッチング市場の整備のように経済学の理論的知見が実際に現実に使われるとともに、経済学が世の中の制度設計に貢献しているのも事実です。特に臓器提供や学校選択、そして研修医マッチング等多くのマッチング市場において、理論と実践への往復が複数回なされることで、理論的にも深化するとともに、現実の適用の場においても一層洗練されて使われるようになってきます。

世の中には制度を通じて非効率を解消できる分野がまた多く残っています。マッチング理論はまさに世の中の非効率な制度や仕組みを改善するにあたって、我々にとって有効なツールになると実感した読書会でした。

第4回法と経済学勉強会_第2編事故法に置ける第10章「抑止の分析の展開」第11章「責任、リスクの負担、保険」】_開催報告_2016年5月15日(日)

5月15日(日)に第4回法と経済学勉強会を開催しました。今回扱ったのは、第?編事故法に置ける第10章「抑止の分析の展開」と第11章「責任、リスクの負担、保険」の箇所です。

第10章の「抑止の分析の展開」では、これまでに取り上げた基礎理論を拡張し、過失の認定、無資力、代位責任等に関する諸問題を扱っています。この中では、特に無資力問題が議論になりました。無資力問題とは、加害者側が損害賠償を出来るほどの資力がそもそもない場合に、注意を払ってリスクを減少させるインセンティブが不十分なものになるというものです。本書においては具体例として、原子力発電所の防護壁を作るかどうかが挙げられていました(防護壁は、壊滅的な損害がある場合にのみ役にたつがそれ以外の場ではコストがかかるのみという場合、所有者は防護壁を作るインセンティブをもたいない)。こういった事例において、東日本大震災で似たようなことが実際に起きたことを考えると、制度設計を通じてどのようなインセンティブをもって安全性を担保するのかという重要性を実感します。

第11章では、賠償責任をいかに緩和するのかといった課題について、主に保険の役割について学びました。当日主として議論になったのは「株主代表訴訟保険(会社役員賠償責任保険)」についてです。ご存じの通り、株式会社においては、委託者である株主から選任された受託者である経営者(取締役)がビジネスの実務を行うこととなります。いわゆる「所有と経営の分離」です。このような仕組みにおいて避けては通れないのがプリンシパル=エージェント問題となります。例えば、経営がうまくいかなかった場合に、受託者である経営者は、委託者である株主から「きちんと業務を執行しないから経営がうまくいかなかったんだ。訴える!」と言われるリスクがつきまとうこととなります。こういったリスクを受託者側である経営者があまりに懸念をしすぎると、誰も経営者をしたくなくなるという問題が出てきます。特に昨今では社外取締役の重要性が叫ばれていることもあり、経営者不足は企業価値向上においてクリティカルイシューとなる可能性があります。このような非効率を緩和するのが前述した「株主代表訴訟保険(会社役員賠償責任保険)」となります。

一方で、この保険がどこまで役に立つのかという課題もあります。結局のところ、コーポレートガバナンス問題に帰着することにはなるのですが、本章はこういったコーポレートガバナンス問題を考える際にも大きな助けになると思います。

最後に、当日のプレゼン資料と参加者の方から教えていただいた今回扱った内容の原論文のリンクを記載いたします。

次回は第3編「契約法」に入ります。途中からの参加も大歓迎です。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

法と経済学

法と経済学